ファンが声をあげない理由を、元ファンの立場から考える

 私はジャニーズの元ファンだ。ファン歴は2007-2010年の3年と、2016-2020年の4年、合計7年程度。長くはないかもしれないが、短くもないと思う。一度はファンだった身なので、BBCのドキュメンタリーを見て、それなりにショックを受けた。「それなり」で済んでいるのはやはり「元」ファンだからで、現役のファンのしんどさは私の比ではないだろう。
 SNSでは「ファンが声をあげるべき」「他国だったらファンが大騒ぎするはずなのに、日本のファンは……」とファンの責任を問うコメントが散見される。正論なのだが、正直な私の思いは「簡単に言ってくれるな」である。
 私は「元」ファンなのでまだ精神的負担が少なく、あれこれ文句を言う元気があるが、現役のファンの気持ちを思うと「声を上げろ」と責める気にはなれない。
 ただでさえ傷ついているところに外からも責められているファンのことを思うとしんどくなってきたので、ファンが声を上げられない理由を四つ、自分なりに書いてみようと思う。調査をしたわけではなく、主観でしかないが、参考になれば嬉しい。

①事件に向き合う余裕がない
 ジャニーズに限らず、アイドルのファンの中には、推しに依存している人が少なからずいる。
「仕事はクソだけど推しのためだと思って頑張る」
「推しがいるから仕事(勉強)を頑張れる」
 このような文言を見たのは一度や二度ではない。そういう人にとって、推し活ができなくなることは、足場が揺らぐことだ(大げさではなく)。
 推しがこれまで通り仕事できなくなるかもしれない。あるいは、自分のしてきた無邪気な応援が、(間接的であったとしても)加害への加担になっていたかもしれない――。
 事件と向き合う際には、そういう恐怖と不安が付きまとう。心の拠り所であったはずの推し活が、心の負担になってしまう。最悪の場合、社会生活にも支障が出る人もいるだろう。心を守るためには、事件を一旦無視するしかない。

②告発を嘘だと思っている
 告発者をバッシングしているような人はここに分類されるかもしれない。「嘘」とまでは言わないけど、本当かわからないから静観している、という人もいるだろう。残念ながら、本件に限らず、性被害の告発ではよく見るパターンだ。
 ファンの間では、「愉快でタレント思いなおじいさん」というジャニー氏像がすっかり定着している。事務所のタレントたちがジャニー氏を好意的にいじっている姿もたくさん見てきた。その既存のイメージと、性加害者としてのイメージは一致しづらい。「まさかあの人が」という思いに駆られて、擁護側に回ってしまうこともあるだろう。
 私は、勇気を出して告発したであろう被害者に対して「本当かわからない」と言うのはとても残酷だと思うが、ファンだった頃の自分を思うと、あまり人のことは言えない。
 数年前まで私もジャニーズのファンだったわけだが、実際のところ、99年に文春の記事が出ていたことは知っていた(内容は未読だった)。知ってはいたが、社会で問題にされず、事務所もタレントも何事もなかったかのように活動しているから、大した問題ではないと思っていた。デマか、本当だったとしても昔のことだろうと思い込んでいた。「仮に本当だったとしても、記事が出たのに加害を続けるわけないよね。もう終わったことだよね」と、都合よく解釈していた。実際には記事が出た後も加害は続いていたわけで、恥ずかしいし悔しいし本当に申し訳ない。
 今も、テレビで大きく取り上げられていない=大した問題ではない、と思っているファンは多いのではないだろうか。大手メディアには、ニュースに価値と信頼性を与える役割もあるはずだ。しっかりと被害者に寄り添った報道をしてほしい。

③声を上げることが「正しい」ことだと思えない
 (元)推しが被害者だったらどうしよう?
 私が記事を読んで一番最初に思ったことだ。同じように思ったファンはきっと多いと思う。
 もしも推しが被害者だったとして、ファンに声を上げてほしいだろうか? 声を上げることで、逆に傷ついてしまわないだろうか? 問題が大きく報道されることで、これまで通りの活動ができなくなってしまうかもしれない。声をあげることで、推しの仕事を邪魔してしまうのではないか?
 そう思うと、声を上げることが正しいとは思えなくなる。沈黙が最善の選択のように思ってしまう。
「推し本人から何かコメントが出るまでは、黙っていよう」
 私が現役のファンだったら、こう考えたかもしれない。きっと告発者よりも推しのことを優先して考えてしまっただろうと思う。
 冷静に考えれば、事件が明るみになった時点で、事件を無視して「これまで通り仕事をする」のは不可能だし、事務所に対応を求めていくしかないのだが、②で述べたような「まだ本当だと決まったわけじゃないし」という心理もあいまって、混乱してしまう。
 そもそも、「本当かどうかわからない」と主張するなら、「調査しろ」と要求するのが筋なのだが、①のような追い詰められた状況では、そこまで考える余裕も体力ない。

④怒りの矛先を誤った方向に向けている
 ①や③をこじらせた結果、告発者や被害を報道したBBCなどに怒りを向けているパターン。こればかりは全く擁護できない。
 本件に限らず、これまでに起きた性被害者へのバッシングでも「お前がなにも言わなければ問題にならなかったのに」というような反応を見たことがある。現実を直視したくないあまり、被害者の口をふさごうとしているのだろう。
 世界進出を目指しているタレントのファンは、不安に思っているだろう。ドラマに出演中のタレントのファンも、ドラマへの影響を心配しているだろう。こんな不安な状況に置かれて、誰を責めればいいかわからない。その結果、「加害が表に出たせいで推しの経歴に傷がついた」という誤った結論を導き出してしまうのかもしれない。怒りの矛先が告発者に向いてしまうのかもしれない。だからといって告発者に暴言を吐いていい理由にはならないし、全く擁護はできないが。悪いのはあくまで加害者と、加害を隠蔽してきた事務所であることを見誤ってはいけないと思う。

 上記以外にも、様々な理由があると思う。「なんとなく嫌な気分になりそうだから直視しない」という消極的な人もたくさんいるだろう。ファンと一口に言っても事情は様々だ。
「ファンは声を上げろ」と言われて真面目に聞くのは、すでに責任を感じている人たちであって、無視している層には届かないだろうとも思う。
 とはいえ、私自身は、できるならファンも事務所に抗議をいれたり、報道に及び腰なメディアに意見を送ったりしたほうがいいと思っている。FC会員から抗議がたくさん届けば事務所も動かざるを得ないだろうし、長い目でみたら、その方がタレントのためになると思うので……。でも、生活に支障が出るくらいしんどい思いをしているファンがいるのもわかるし、無理はしてほしくない。自分の生活を最優先にしてほしい。

 ジャニーズ事務所には、とにかく被害者第一で対応してほしい。被害を申告した人には謝罪と補償をしてほしいし、今は言い出せずに三年後、五年後に申告したとしても、きちんと対応して欲しい。調査の際には、被害者が新たな傷を負わないように最大限配慮して欲しい。

 正直、99年に記事が出たときに然るべき措置が取られていたなら……と思わずにはいられない。あのときちゃんと調査がされて、処罰されて、再発防止策が取られていたなら、被害に遭わずに済んだ人もいただろう。ファンも苦しまずに済んだ。
 一番最悪なのは、今回も告発がスルーされて、被害者が泣き寝入りするはめになってしまうことだと思う。だから、ファンに限らず、余裕がある人は事務所に意見を送るなり、SNSで意見を言うなり、テレビ局に意見を送るなりしてほしい。ファンにだけ責任を負わせるようなことはしないでほしい。一番大変なのは被害者だが、ファンも少なからず傷ついているはずなので。

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