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高寺望夢の先行投資【2/26 対中日戦●】

春季キャンプが始まった頃、糸原健斗や中野拓夢らの姿はなかった。試合が始まったら1軍に名を連ねるであろうメンバーがそろわなかった分、将来の活躍が期待されるメンバーが招集された。

高卒2年目の高寺望夢も、そのひとりだ。

昨季は公式戦の出場こそなかったが、東京五輪開催中に行われたエキシビションマッチでは1軍に呼ばれるなど、少しずつ歩みを進めている。秋のフェニックスリーグでは29打数16安打の打率.522を記録し、ファンたちを驚かせた。

高寺は1軍キャンプを完走した。1日キャプテンも引き受けた。名物のデスノックもやりきった。久慈照嘉コーチにはセブンティーンアイスをごちそうしてもらっていた。この年の選手が1流選手に混じって練習をこなすだけでもすごい。僕が大学1年の2月3月なんて長い冬休みにかまけて毎日ダラダラしていたのに。

オープン戦が開幕した。阪神は7回に1点を勝ち越された後の攻撃で佐藤輝明が出塁。代走に高寺が起用された。終盤の1点差。公式戦なら代走の切り札である植田海や熊谷敬宥が起用されているはず。まさに勝負所だ。仮に盗塁をしかけるとしたら、絶対に失敗できない場面だ。ドラゴンズ・清水達也が3球目を投じた直後、1塁走者の高寺がスタートを切った。

結果は、アウト。同点のランナーを失ったタイガースはこの回無得点に終わった。

僕は高寺の盗塁失敗を見ながら、昨季盗塁王を獲得した中野のことを思い出していた。ルーキーイヤーで盗塁王のタイトルを取った中野。けれども昨年の春季キャンプ、中野はまったく盗塁が決まらなかった。何度走っても、何度走っても、2塁ベースでアウトになる。4回連続で盗塁に失敗したこともあった。今だから言えるが(大丈夫か……?)と心配ながらに見ていた。

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だがシーズンが始まると中野は「盗塁を失敗しない男」に姿を変えた。シーズン30盗塁で失敗はわずか2。先輩の近本光司に学び、筒井壮コーチと研究を重ね、球界屈指の盗塁技術を身に着けた。中野はキャンプ中に失敗を重ねながら、自らの課題と向き合った。この時期の失敗なんて大したことじゃない。むしろ大きく成長するチャンスだ。

昨シーズンの高寺は2軍でわずか3回しか盗塁を試みなかった。そんな選手がオープン戦とはいえ1軍の試合、しかも代走で果敢に次の塁を狙ったことに意味がある。タイガースには高い盗塁技術を持った選手と、彼らを指導したコーチたちがいる。高寺だってきっとそうなれる素質がある。

「あの高寺も、始めの頃はいっぱい盗塁失敗してたよねえ」

そんな独り言が言える様になる日も、そう遠くないはずだ。



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