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脚の力【7/16 対中日戦●】

入団したての頃と比べて、近本光司の走力について考える機会が減った気がする。入団当初は快足外野手として注目されていた近本だったが、今ではチーム屈指のヒットメーカーだ。
プロ3年目の昨シーズンは最多安打のタイトルを獲得。今シーズンは30試合連続安打を達成し、M.マートンが持つ球団タイ記録を樹立した。7月16日現在、リーグトップのヒット数をマークしている。途中から3番に定着したこともあって、リードオフマンではなくポイントゲッターとしての役割を求められるようになった。彼がチームに加わったときと比べて、足を使える選手が増えたことも一因かもしれない。

9回裏の攻撃、近本の脚がなかったら同点に追いつけず、そのまま試合は終わっていたに違いない。

点差はわずか1点ながらドラゴンズのピッチャーはR.マルティネス。この日時点での防御率は0.30。セーブ機会での失点は今季まだない。好投手が集まるクローザーの中でも飛び抜けた存在だ。

タイガースの打順は近本から。この人が塁に出られれば少し希望が見えてくる―
そんなことを考える暇もなく、いきなり初球をセンター前に運んだ。

近本が塁に出た。さて、あとは少しずつランナーを進めて後続の打者がヒットを打てば―
あれこれ考えを巡らせる前に、近本がスタートを切った。

この日の試合、中野拓夢と熊谷敬宥が盗塁を試みたがドラゴンズ・木下拓哉の前にいずれも失敗に終わっている。普通なら躊躇してもおかしくないと思ったけれど、きっと彼にはそんなこと関係ないのだろう。盗塁を成功させた近本は、佐藤輝明の内野ゴロの間にさらに進塁。同点のランナーが三塁に行った。1アウト三塁。

当然のようにドラゴンズの内野は前進守備。バッターの糸原健斗の打球はショート・土田龍空のほぼ正面に飛んだ。前進守備とはいえ、野手の正面に飛んだ打球だと守る側が有利だ。ボールがキャッチャーに送られる。近本もホームに突っ込んできた。
いくらなんでも無謀だと思った。タッチとホームイン、どっちが速かったか。テレビで見ていた僕には分からなかったけれど、球審の手は横に広がった。追いついた。

ショート土田の守備には無駄がないように見えた。送球のスピードも投げた位置もほぼベストだった。けれど、近本の脚が、技術が、それをほんの僅かに上回っていた。

近本が自ら塁に出て、自分でチャンスを作り、自らの脚で同点のホームインを勝ち取った。近本にしかできない芸当だと思った。

「僕の仕事をやっただけです」

短いコメントに彼の自信とプライドが垣間見えた気がした。


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