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突然の別れを簡単に受け入れられるほど、僕は人間ができていない【12/9 試合なし】

裏で何が起こったのかよく分からないまま、今日この日をもって陽川尚将は阪神タイガースから埼玉西武ライオンズの選手になった。

選手の移籍を活発化させるために始まった現役ドラフトは完全非公開で行われた。誰がリストアップされていて、どの球団から指名が始まって、誰が移籍したか、その過程はブラックボックス。1つ明らかなのは、結果が発表されたその瞬間、1人あるいは2人が、タイガースの選手でなくなる。選手の尊厳を守るために非公開で良かったと思うけれど、現役ドラフトが始まった午後1時からはまるで生きた心地がしなかった。なんの予告もなく発表されるトレードとは違うしんどさがあった。

自分なりに現役ドラフトを勉強して分かったのは、「他球団が欲しいと思える選手をリストアップしないと、こちらも狙っているような選手は獲得できない」ってこと。指名順が遅くなればなるほど、こちらの選択肢はどんどん狭まっていく。つまり、ある程度の痛手を覚悟して選手を選ばないと厳しい結果もあり得るというわけだ。その一方で、他球団から見て魅力的な選手をリストアップしていれば、こちらが希望する選手が獲得できる可能性も高くなる。

おそらく、タイガースは賭けに勝ったのだろう。プロ通算安打と本塁打と打点、この日移籍が決まった野手の中で最も上だったのは陽川だった。実績のあった陽川をリストに入れたからこそ、1軍での先発経験も豊富な福岡ソフトバンクホークスの大竹耕太郎を獲得できた。

でも、数々の実績があるってことは、僕たちファンとたくさんの思い出を「割り勘」してきたってこと。打てて嬉しかった思い出も、打てなくて悔しかった思い出も。悔しい思いをしたからこそ、打てた時の喜びもひとしおだった。

CSに進むにはもう1試合も負けられない状況で迎えた2019年秋の甲子園。代打で登場した陽川がレフトスタンドの1番深いところにホームランを打った。陽川の一発で試合の均衡は破れ、この日引退したR.メッセンジャーを勝利で送り出せた。陽川のホームランがなかったらその後の劇的なクライマックスシリーズもなかった。

新型コロナウイルス感染症の実証実験を行うためにたくさんのお客さんを入れて行われた2020年秋の横浜スタジアム。久しぶりにみた満員の野球場で、陽川はホームランを放った。レフトスタンドが大いに湧いた。プロに入って初めてのグランドスラムだった。

今年あれだけやれた陽川のことだから、きっと来年も多くのファンを興奮の渦に巻き込むだろう。でも、その対象はもうタイガースファンじゃない。主戦場は甲子園球場じゃなくてベルーナドームになる。

プロ野球選手たるもの、出番が増えた方が良いに決まってる。活躍できる環境を求めてチャレンジするのは当然のことだ。そんなことは分かってる。理解しているつもりだ。
けれども、来年どれだけ陽川が活躍しても、タイガースファンと陽川はもう思い出を割り勘できない。発表から数時間でその事実を受け入れられるほど、僕は人間ができてない。
野球選手としての幸せを喜べない、そんな自分に嫌気がさす。

新しいユニフォームを着て躍動する陽川。その姿を見られたら、この気持ちも少しは変わるのだろうか。

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