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選手から監督になっても【12/29 対ジャイアンツJr戦〇】

今から10年前のシーズン。当時のタイガースに現れた若手のレギュラー候補。
それが上本博紀と大和だった。

この頃のタイガースは絶妙に世代交代が進んでおらず、中堅からベテランの選手中心に構成されていた。共に上位打線を担ったふたりの台頭は、新しいタイガース誕生を予感させた。

そして今、上本はジュニアチームの監督を務め、大和は年の離れた選手とのポジション争いをする立場にある。月並みな表現だが、月日が経つのは早いなとつくづく思う。

試合中のグラウンドでは表情を崩さず、ひたすらに寡黙。
現役当時の上本に対して、そのような印象を持っていた人は多いかもしれない。僕もそうだ。インタビューも淡々としていて、どちらかと言うと感情が読み取りづらい選手だった。
けれども、別に冷めている選手だったとは思わない。むしろ内に熱いものを秘めていて、とても仲間思いな人だった。

ある年、ずっと登場曲を設定していなかった上本に登場曲が付いた。選んだ楽曲は「Mrs. GREEN APPLE」の「僕のこと」。この前の年に現役を引退した山崎憲晴が使っていた曲だ。
上本と山崎は共に1986年生まれの同い年。プロでチームメイトだったのは2年間だけだったが、大学の日本代表で二遊間を組んだ経験がある。共に大学時代はチームの主将を任されていたふたり、何か通ずるものがあったのかもしれない。縁があった山崎の登場曲を引退翌年になって上本が使うようになったのは、単なる偶然ではない。「山崎の分まで頑張る」という上本なりのメッセージだったんじゃないか。僕はそう思っている。

NPBが主催する小学生の野球大会、NPB12球団ジュニアトーナメント大会。各地から野球が上手い小学生が招集され、選抜チームを結成する。上本監督率いるタイガースJrは決勝の舞台に駒を進めた。対するはジャイアンツJr。伝統の一戦と同じ組み合わせになったこともあって、応援にも熱が入っているように感じた。

試合は両チームのピッチャーの好投で始まった。守備も堅く、なかなか得点が入らない。1対1のまま試合は延長戦に突入した。
延長8回裏(ジュニアトーナメントは6イニング制)タイガースJrは四球と相手のバッテリーの隙を突いてチャンスを拡大する。その後二死満塁になって、4番の石田修くんに打席が回ってきた。
石田くんの打球は右中間へ。外野手が追いつく前に打球がグラウンドに落ちた。3塁ランナーが両手を挙げながらサヨナラのホームを踏んだ。
ベンチで戦況を見つめていた上本監督も、クシャッと表情を緩ませた。

試合後、上本監督の優勝インタビューが行われた。

「大舞台で力を発揮してくれた選手たちが頼もしく尊敬しています」

きっと僕が当時抱いていた「上本選手」のイメージとは違ってじっくりコミュニケーションを取ってきたのだろう。
しかもこのジュニアチームはセレクションを経て結成された選抜チームだ。決められた期間で性格や特徴を理解して、プレーヤーの良さを引き出すことは、決して簡単ではないだろう。試合中も対話を通してコミュニケーションを図る上本監督の姿が、中継映像に何度も映っていた。

インタビューが選手指導の話に移る。
すると、上本監督が涙を流し始めた。

「負けて、子どもたちが悲しむ姿を見たくないという一心で……」

勝って喜ぶ姿を見たい、じゃなくて、負けて悲しむ姿を見たくないと表現するところに、上本監督の人柄が現れているようで思わずジーンと来てしまった。

仲間思いで熱いものを秘めている。
野球選手を引退して監督になっても、上本の原点は変わっていなかった。その熱意が子どもたちやコーチ、スタッフたちを動かしたのだろう。

上本監督、おめでとう!!


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