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74番目の男・石井大智

プロ初登板のピッチャーの結果が伴わなかったり痛打を浴びたりすると、「ホロ苦デビュー」と書かれることがある。

だけどタイガース・石井大智の開幕戦にかける思いを想像したら、「ホロ苦デビュー」なんて言葉で片付けることはできない。

昨年のドラフト会議、支配下登録選手の中で最後に名前を呼ばれたのが石井だった。
独立リーグも経験した74番目の男。「指名順イコール評価の高さ」ではないが、その注目度は決して高かったとは言えない。

石井が神宮球場のブルペンで1球1球力強く投げ込み、来るべき出番に備えている。
大きく息を吐くのは寒いからか、それとも緊張からか。

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大山悠輔のタイムリーで、1度は消えた藤浪晋太郎の勝ち星が戻った。
後は自慢のリリーフ陣でリードを守るだけだ。
7回、石井に出番が回ってきた。ブルペンを見つめていたファンからの熱い拍手に見送られながらマウンドに向かう。夢見たプロ野球の舞台。


そのデビュー戦が1点差。
しかも打順は山田哲人→村上宗隆→内川聖一。
さらに藤浪の復活の白星がかかっている。


いかん、見ている僕まで緊張してきた。

独立リーグを経て入団した石井と、球界のスーパースター山田が相対する。
プロ初登板、初対戦。石井は山田から空振り三振を奪った。全球ストレートだった。

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手と、足を、めいっぱいに使って石井がボールを投げ込む。
ランナーを2塁に置くも、2アウトまできた。

6番・塩見泰隆に投げた直球は、右中間に弾き返された。
石井が「ああっ……」って表情をしながらカバーリングに入る。藤浪の白星も消えた。バッターランナーは3塁へ。勝ち星の死守が一転、黒星の危機だ。
石井はここで降板を告げられた。

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伏し目気味にマウンドを降りる石井大

自宅に戻ったあと、録画した試合の映像を見た。
ベンチで試合を見つめる石井の鼻が赤くなっていた。目も腫れていた。
悔しさと無念さが、その表情からひしひしと伝わってきた。


結果は伴わなかったデビュー戦はたしかに「ホロ苦」と言えるのかもしれない。
でもあの山田から全球ストレートで空振り三振を奪った。悪い内容だったとは決して思えない。ああいうピッチングをしてくれると信じていたから、しびれる場面で送り出した。

大丈夫。まだ始まったばかり。
あなたの前に69番を付けていた島本浩也も、ここ神宮で手痛い失点を喫してから強くなった。
次はやり返そうぜ!


2021年 3月26日  開幕戦とらほ~

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