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青柳晃洋が完全試合を阻んだと言いたい【5/6 対中日戦●】

マリーンズの佐々木朗希が史上最年少での完全試合を達成してから1週間後、ZOZOマリンスタジアムには多くの観客が詰めかけていた。目的はもちろん佐々木。偉業を達成した若き怪物の次なるピッチングは、投げる前からファンを魅了していた。2試合連続の完全試合への挑戦。スケールが大きすぎて、文字だけ見ても何を言っているのか分からなかった。もちろん2試合続けて完全試合を達成したピッチャーは過去に存在しない。

前回とは違って灰色のサードユニフォームを身にまとってマウンドに上がった佐々木。前回登板は黒色のユニフォームだったこともあって、印象が大分変わる。
佐々木は5イニングを投げ終わった。被安打、0。与四球、0。再び佐々木は完全投球を続けていた。6回、7回も同じように抑えた。周囲のざわめきなど目に留めず、佐々木は8回もパーフェクトに抑えてしまった。まさか、そんなことが。

対戦相手のファイターズベンチが焦っている。だがこの日はマリーンズベンチも同様に焦っていた。

援護点が、ない。

先週の試合では早々に先制点を奪ったが、この日はファイターズの先発・上沢の前に得点を挙げられずにいた。持ち前の投球術と全てが高水準のボールで、マリーンズ打線に的を絞らせない。完全試合はチームが勝利しないと達成されない。当たり前すぎる事実が、この日は重くのしかかっていた。「自分が点を取られなければ負けない」。ファイターズの野手陣が必死に突破口を探しているのと同時に、上沢直之も自分の持ち場を守っているようだった。

結局、佐々木は同点のまま8回を投げ終わってで交代した。味方が打てなくても完全試合を阻止する方法があることを、僕は知った。

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バンテリンドームナゴヤで行われたタイガースとドラゴンズとの一戦。
タイガースの先発・青柳晃洋とドラゴンズ・大野雄大。共に日の丸を背負い戦った仲間同士の対戦。最初は互いに「全然打たれないな一」くらいにしか思っていなかったが、6回くらいから目が離せなくなった。ふたりの投球を見逃してはならない、そう思った。

青柳も譲らない。復帰後3試合はいずれも長いイニングを投げているが、その影響をみじんも感じさせない投球だ。
横手投げの青柳を攻略すべく、左打者を並べた対青柳オーダーを組んでくるチームが増えた。だが、青柳は去年からツーシームを効果的に使っている。左バッター視点で言うと、ストレートに近い球速で自分のバットから遠ざかるように曲がる球種だ。高めに投げれば持ち前の球威で空振りを奪う。低めに投げればバットの芯を外し内野ゴロの山を築く。この球種が使えるようになってから、青柳は左打者を苦にしなくなった。

ボールのコントロール、フィールディング、対左打者の攻略……。課題をひとつひとつ乗り越えた青柳は、チームに欠かせないピッチャーになった。ここまで青柳が登板した試合はすべてタイガースが勝利している。

青柳と大野。ふたりの投げあいは終盤も続いた。互いが互いを意識しているように見えた。ふたりの気迫、ふたりだけの時間。打者が介入する余地はなかった。

大野は9回まで投げた。許したヒットは0本。フォアボール、デッドボール、エラー出塁もなし。27人目の打者はセカンドゴロに打ち取った。全ての対戦に、大野は勝利した。

けれども試合は続いている。
援護点が、ない。

青柳もまた、ドラゴンズ打線に得点を与えなかった。1点でも入っていたらこの瞬間、大野やチームメイトは歓喜の輪を作っていたに違いない。打てなかったけど、打たれなかったのだ。

大野は10回もマウンドに上がった。1番からの好打順なんて言葉は、この日に限っては存在しなかったかもしれない。難なく2アウトを奪った。続くバッターは佐藤輝明。この日30人目のバッター。

佐藤輝

この日初めてと言っていいほどの気持ち良い打球音が響き、白いボールが右中間の空気を切り裂いていった。
ボールが緑のグラウンドを転々としている。佐藤輝のツーベースヒット。この日初めて、タイガースの攻撃でHランプが灯った。
完全試合は、阻止された。

記録上、大野の完全試合を止めたのは佐藤輝のヒットということになる。けれども、もし青柳が1点でも取られていたらこの10回表はなかった。佐藤輝が4回目の打席を迎えることなく、試合が終わっていた。
青柳の好投なくして、この完全試合阻止はなかった。

10回の裏、青柳はこの日初めて点を取られた。壮絶な投げ合いは0-1で幕を閉じた。どんな試合も点を失った方が敗戦投手になる。黒星が付く。なんと厳しく、切ないのだろう。

勝ち投手、なってほしかったなあ。


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