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すべて揃ってこその江越大賀【2/27 対ヤクルト戦○】

どうして、どうして彼のプレーはこうも僕たちをワクワクさせるのだろう。

昨季ペナントを制したスワローズとのオープン戦中継を見ながら、僕はそんなことをずっと考えていた。江越大賀のことだ。

身体能力はチームトップクラス。外野守備につけば落下地点まで最速で追いつくスピード、ベースランニングもびっくりするくらい速い。そして何より、どこまでも飛んでいくんじゃないかと思わせる鋭い打球。2年目には4試合連続ホームランを記録したこともあった。当時の金本知憲監督も惚れ込んだ才能に、僕たちファンも酔いしれた。打撃、走塁、守備。江越の全てに無限の可能性を感じていた。

しかし、江越の打撃はなかなか良くならなかった。自慢の長打力もバットにボールが当たらなければ披露される機会もない。江越が打席で空振りするたび、客席からは失笑に近い声が漏れることもあった。江越自身も、自分の打撃を探して、探して、余計に分からなくなっている、そんな気がした。

打撃で結果が出ない江越は、いつしか代走や守備固めに活躍の場を移していた。誤解のないように言うと、江越は代走としても超一流だと思う。思い切りの良い走塁、次の塁を果敢に狙う姿勢。これらの状況判断はチーム随一のものを持っている。

スワローズの先発・奥川恭伸の死球で出塁した江越。自らの盗塁で2塁を陥れると、バッター・坂本誠志郎がライト前にヒットを放った。ナイスバッティングだ。ボールはライト・D.サンタナのほぼ正面へ。間に合うかどうか微妙だったが、江越はまったく躊躇しなかった。捕手のタッチをかわして左手で本塁をかすめるようにしてホームイン。江越の高い走塁技術が詰まった1プレーだった。見ていてただシンプルに「すごい……」と思わせる走塁。今日もまた、江越の走塁に魅了されてしまった。この好走塁でチームは一時は同点に追いついた。

タイガース7回表の攻撃、江越にこの日3回目の打席が回ってきた。点差は2点だが前打者が四球で出塁している。バットでもアピールできたら、この日の主役は間違いなく江越だ。

初球のストレートは高めに外れてボール。続く2球目。同じく高め。だがこのボールはストライクゾーンに入ってきた。江越のバットがボールを捉える。当たった。打球がいい角度で上がっている。観客のざわめく声が聞こえて―そのままスタンドに入った。走塁の次は、バッテイングで試合を振り出しに戻した。江越が充実に満ちた表情で戻る。一緒に打撃改造に取り組んでいた藤井康雄打撃コーチが笑顔で江越を出迎え、優しくポンポンと肩を叩いた。

決して簡単な球ではなかった。ややインコースよりの高め。腕に近いところのボールをホームランにするにはきれいな軌道でバットを振り抜く必要がある。それはとても技術のいることだ。これまでの江越だったら捉えられなかったかもしれない。キャンプ前の自主トレとキャンプ中に取り組んできた打撃改造、その成果が最高の形で現れた。

去年までの江越は「走塁・守備のスペシャリスト」だった。怪物級のプレーヤーが揃うプロ野球の世界で2つも優れたものを持っている江越はすごい。でも、けれども、本当の江越は走攻守全てが優れた選手なのだ。今まではその打撃の才能だけがなかなか顔を出さなかった。ただ、それだけのことなのだ。

すべてが揃った江越大賀がどんなプレーを見せてくれるか。想像するだけでワクワクが止まらなくなる。飛躍の時はすぐそこまで来ている。



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