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スタメンだからこそできること【4/8 対広島戦▲】

今年の春、甲子園にオープン戦を見に行った。先発は藤浪晋太郎。人入りはまばらだったが、長身の背番号19がベンチから飛び出していくと、観客席からは拍手が響いた。声が出せないなりの精一杯のエールが、嬉しかった。

だが藤浪は初回から対戦相手のイーグルス打線に捉えられ、いきなりノーアウト満塁のピンチを背負ってしまう。その後も勢いを止められず、見方の判断ミスなども絡んで一気に3点を失った。ほんの十数分前までとはうって変わり、球場の雰囲気が重たくなっているのが、観客席からでも分かった。

思うようにいかず苦しんでいる藤浪の元に、小幡竜平が駆け寄った。この日はショートでスタメン出場だった小幡は、打者との対戦が終わる度にマウンドの近くまで行って、藤浪に声をかけた。まだ21歳の小幡にとって、プロ10年目の藤浪は大先輩だ。ましてや初回から大荒れの先輩に声をかけるなんて、もしかしたら気を悪くするかもしれない。小心者の僕がもしグラウンドに立っていたら、そんな風に考えて何もできなかっただろう。座席からは何を言っているかは分からない。藤浪は小幡と一言二言、ときにはじっくり会話を交わして、小さくうなずいていた。

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先発の藤浪(右)に声をかける小幡(左)

開幕スタメンこそならなかったが、4月5日の対ベイスターズ戦から小幡はセカンドでスタメン起用されるようになった。連敗がストップした5日の試合からヒットも3試合連続で放っている。

スタメン出場が続いたことで、小幡がマウンドの投手に声掛けをする場面が再び見られるようになった。先発の藤浪から12回に登板した馬場皐輔まで、この日のタイガースは計8人の投手が登板した。テレビ中継なのですべてのシーンを見ることはできなかったけれど、投手交代のタイミングやピンチの場面で小幡はよく声をかけていた。ほかの内野陣が声がけをしていない訳じゃないけども、小幡がマウンドに行く回数は際立って多かったと思う。視野が広く、物怖じしない選手なのだろう。
野球の守備は、何も自分の範囲にきたボールを捌くことだけじゃない。周りの選手とコミュニケーションを取って守備位置を決める、内野手ならマウンドの投手を落ち着かせる。小幡は「プレー以外」の守備でも味方を助けられる選手だ。

スタメンで出るということは、当然チャンスで小幡に打席がまわってくることもあるわけだ。8日の試合と6日の対ベイスターズ戦、小幡はサヨナラの場面で打席がまわってきた。
結果はいずれも三振だった。たらればを言うつもりはさらさらないが、大きなアピールになるどころか、チームの雰囲気を変える一打になった可能性があったはずだ。
小幡は悔しそうな顔をしながらベンチに戻っていった。これもスタメンで出ないと味わえない感情なのかもしれない。自分が出て試合に勝てない、これほど悔しいことはないはず。
けれども、レギュラーを掴んだ周りの選手たちも、悔しい思いを重ねて強くなっていった。

君なら、ぜったいに乗り越えられるから。

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