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最後の”キリフダ”【10/8 対横浜戦○】

8回裏の守り。キャッチャーの梅野隆太郎は急ぎでキャッチボールをして出番に備え、ピッチャーの湯浅京己(ゆあさ あつき)はリリーフカーに乗ってグラウンドにやってくる。ほどなくして、場内アナウンスで選手の交代が告げられた。

終盤のピンチにリリーフの湯浅を投入。ここまではシーズンでも何度か見た光景だ。いつもと違ったのは、湯浅が8番の打順に入ったことだった。

8番:坂本誠志郎→湯浅京己
9番:岩崎優→梅野隆太郎

直前の攻撃は坂本で終わっていたので、9回の攻撃は9番打者から始まる。ベンチはあえて湯浅に打順が回らないようにした。ピッチャーのところで代打を出さなくて良いように、打順を調整した。
それが意味するもの。湯浅の回跨ぎ―。
8回のピンチと、9回の3アウトはすべて湯浅に託された。

「矢野さんは、湯浅に全てを託すつもりだ」
矢野燿大監督がCS突破に向けて決断した最後の”キリフダ”。
それはセットアッパーを務めていた湯浅をクローザーに据えることだった。

150kmを超えるストレートと、落差の大きいフォーク。ピンチでも動じない精神力。59試合登板で防御率は1.09。守護神をやれるだけの素質があることは十分に証明した。だがシーズン中で湯浅がセーブを記録した試合は1つもない。いくらベンチのアイデアとして温めていたとはいえ、ぶっつけ本番だ。
しかも8回からの登板。クローザーを前の回のピンチから前倒しで登板させるのは、今の野球ではセオリーに反する。負担が大きくて、長丁場を戦うペナントレースではできない起用法だ。
これが、短期決戦なんだ。

昨シーズンの登板はわずか3試合。入団から大きな故障を繰り返し、何度も壁にぶつかってきた男が、この大舞台の命運を託されている。

バッターはベイスターズ不動の4番・牧秀悟。ランナー1,2塁。長打で同点。ホームランで、逆転。緊張からか、湯浅のボールはいつもより少し上ずっているように見えた。球は上ずっていても、力があった。高めの直球で追い込み、最後はフォークで空振りを奪う。湯浅の気迫が、ベイスターズの攻撃を退けた。

2点差のまま迎えた最終回。湯浅がマウンドに上がる。心のどこかで、いつか見たいと夢見ていた「クローザー・湯浅京己」。でもまさか、こんな大事な場面で巡ってくるなんて、予想もしていなかった。
回を跨いでもボールの力は変わらず。最後のバッターを内野ゴロに打ち取った。試合が終わったので、グラウンドの選手たちがマウンドに集まってくる。笑顔でタッチを交わす選手たち。その中心に、湯浅の姿がある。
その事実が何より嬉しかった。

初めてのセーブ。
また1つ、彼の強さを見た気がした。

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