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僕らは江越大賀に夢を見たんだ【11/5 対侍JAPAN戦●】

すべてのプロ野球ファンに愛された杉谷拳士が華々しく現役を引退した一方で、ひっそりと再スタートを切った選手がいた。
江越大賀と齋藤友貴哉。共に今シーズン終了後にタイガースからファイターズにトレード移籍した選手だ。トレードが発表されたのはすべての公式戦が終了したあと。フェニックスリーグで出場機会はあったものの、多くファンに見られる場で試合をしたのはこの日が初めての機会だった。

走・攻・守のすべてがハイレベル。
肩も強くて何より打球の力強さは半端じゃない。
当時の江越はそんな触れ込みで入団してきた。

その評判は間違っていなかった。
落下する打球に一直線に走ってフェンスを恐れぬダイビングキャッチ。次のベースを目指して駆け抜ける猛スピード。目の覚めるような速さの打球。
プロ初ホームランはレフトスタンドの深いところまで飛ばした当たりだった。
打っても守っても走っても、全部のプレーでワクワクさせてくれる選手だった。

江越のワクワクは、長くは続かなかった。
プロ1年目、ホームラン5本。プロ2年目、ホームラン7本。
プロ3年目、ホームラン0本。プロ4年目、ホームラン1本。
プロ5年目以降はホームランなし。

それでも、僕らは江越大賀に夢を見た。

江越が若手だった頃は長打が期待できるタイガースの選手が、今と違ってそこまで多くなかった。強く振っているように見えないのにどこまでも飛んでいく打球。球場で彼の飛ばすボールを見て、その後の成長を期待しないファンなんていなかった。

江越は打てなくても、守備と走塁があった。打席に立つ機会が激減しても、代走と守備固めで起用された。
時折見せてくれる守備のスーパープレーに、彼の身体能力の高さを感じた。2塁ベースを蹴ってさらに加速するスピード。一歩間違えれば暴走にもなりかねない思い切りの良さは、彼の魅力だった。無茶にも見える彼のホーム突入が、チームに貴重な得点をもたらした。

それでも、僕らは江越大賀に夢を見た。

守備や走塁でナイスプレーを見せるたび、「あとは打つことさえ良ければ」と何度思ったことか。打撃以外でチームに貢献する姿を見るたび、江越の豪快な打球が脳裏に浮かんだ。もう5年も1軍でホームランを打っていない。そんな選手でもホームランを期待してしまうのは、僕らが江越に夢を見ていたからだ。

ファイターズとのトレードが発表され、僕らの夢は思ってもいない形で終わった。
シーズンが終わった後にトレードが発表されたこともあって、移籍したことがしばらく実感できなかった。そこからの侍JAPAN練習試合でのスタメン出場。まさか今年中にファイターズのユニフォームを身に着けた江越が見られるなんて。
もちろん主役は侍JAPAN。近本光司や佐藤輝明、中野拓夢がJAPANのユニフォームを着ている。けれども、僕はユニフォームがスカイブルーに変わった江越が気になって仕方なかった。
江越の第1打席は空振り三振に倒れた。第2打席目。侍JAPAN先発の石川柊太が投じたストレートを強く振った。鋭い当たりが3塁線を抜けていった。打球は上がらなかったけれど、あっという間に外野の最深部まで到達した。時間が経っても忘れなかった、江越の打球。
 
江越の作ったチャンスに打線も応えた。4番の野村佑希がセンター前にヒットを放つ。3塁ベースを蹴った江越はグングンとスピードを上げてホームへ滑り込んだ。何度も助けてもらった、江越の走塁。ファイターズファンに存在をアピールするには十分すぎた。
 
ホームへ生還した江越がベンチに戻る。新庄BIGBOSSが笑顔で江越を出迎えている。
「ああ、本当にタイガースからいなくなっちゃったんだ」。
どうしてこの瞬間にそう思ったのかは分からない。けれども、江越が新しいチームのみんなに受け入れられているのが見られて嬉しかった。でも寂しかった。

もう僕たちは江越大賀に夢を見られない。
彼に夢を見続けた日々はちょっぴりもどかしくて、けれども楽しかった。

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