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虎メダルはふざけてなんかいない ~某評論記事を読んで~

2022年シーズン最後の「伝統の一戦」はジャイアンツの勝利で幕を閉じた。
試合が終わった後、日刊スポーツから試合の評論コラムがアップされた。評論を担当した人は複数球団で活躍し、コーチ経験も豊富な某球団のOBだ。タイガースでコーチをつとめた経験もある。
評論コラムでは試合の明暗を分けたポイントについて解説したのち、タイガースのベンチについて触れていた。佐藤輝明が先制のホームランを打ち、矢野監督が虎メダルを授与した場面だ。

「メダルをかけるパフォーマンスを喜ぶファンもいるのだろうが個人的には違和感を覚えた」
「ふざけているようにしか思えない」
「しびれる試合の勝負どころでこういった差が出たのだと思う」

ふざけているようにしか思えない―
その言葉が脳内で何度も繰り返される。繰り返す度に胸の奥がずん、と重くなった。

チームのパフォーマンスに関する批評はこれまで球団問わず何度か展開され、その度に物議を醸している。直近ではベイスターズのホームランパフォーマンス「デスターシャ」について球団OBがYouTubeで苦言を呈したことがあった(後に謝罪)。過去にはタイガースがベンチ全体で行うパフォーマンス「グラティ」に対して球団OBがテレビ番組で批判している。

正直、今回の評論もこれまでよくあった批判の1つでしかないのかもしれない。しかし、どうしてもスルーできなかった。怒りや呆れではなく、悲しいという気持ちが出てきた。
なぜなら、虎メダルのパフォーマンスはチームだけでなくファンも一緒になって作り上げてきたものだから。

改めて、虎メダルとはタイガース内でおなじみとなっているパフォーマンスである。ホームランを放ったタイガースの選手がベンチに戻ってきたときに、メダルを首からかける。もともとはMLBのサンディエゴ・パドレスのパフォーマンスを参考にしていて、現キャプテンの坂本誠志郎がベンチを盛り上げるために2021年に発案した。
そして、去年と今年の虎メダルで大きく異なる点が1つある。それは、首にかけるメダルがファンから公募する形式に変わったことだ。去年は坂本がメダルを自作していたが、今年はファンが作った個性豊かなメダルを使っている。メダルは月ごとに交換され、今度はどんなメダルが出てくるかはファンの間でも楽しみになっている。

試合で使う虎メダルは選手や矢野監督らが実際に見て選んでいる。シーズン開幕前には虎メダルのお披露目会の様子を映した動画が公開され、選手たちは「めっちゃ嬉しい」とコメントしながら思い思いに選んでいた。

なぜ今年から虎メダルは公募制になったのか。それはタイガースが行っている「ファンともっと!プロジェクト!」に虎メダルのパフォーマンスが加わったからだ。

サインや握手など、接触を伴うファンサービスはコロナ禍によって一切できなくなった。今でこそ解除されているが、一時は球場に観客制限が設けられ、ファンが球場に足を運びづらくなった。これまでとは形が変わっても、今までと同じようにファンに楽しませたい。そんな思いから2020年に「ファンともっと!プロジェクト!」は誕生した。応援メッセージ動画を募集して試合前に流したり、イラスト付きの応援ボードをベンチの壁に掲載したりしている。いずれも「ファンともっと!プロジェクト!」の試みの1つだ。

このプロジェクトはファンに何かをしてもらう内容が多い特徴がある。これは僕の推測だけれど、「自分たちと一緒に戦ってほしい」というチームのメッセージが込められているような気がする。ベンチに飾る応援イラストや虎メダルは、選手に最も近い場所にファンが作ってくれたものを置いて空間を共有しようというメッセージにも読み取れる。
また甲子園球場で行われる試合の前には「円陣でエンジンをかけろ!」というコーナーがある。ファン代表の子供がエールを送るイベントで、試合前に選手たちが行う円陣の声掛けを模している。これも「みんなも一緒になって戦おうね」というメッセージが込められているように感じる。
「ファンともっと!プロジェクト!」も円陣のイベントもファンが一緒になって参加できて、チームの一員であるような雰囲気が味わえる。そういう試みをいくつもやってくれるタイガースが、僕は好きだ。

昨日(9月17日)の試合では佐藤輝が19号のソロホームランをライトスタンドに叩き込んだ。守っている外野手が打球を追うこともしない完璧な打球。久しぶりのホームランを噛みしめるようにしてホームインした佐藤輝に、ファンが作った虎メダルが授与された。
そのパフォーマンスについて、某評論家はコラムで苦言を呈した。

虎メダルは選手とファンが1つにつながるためにチームが考えてくれたアイデアであることを、この評論家は知っているのだろうか。
素敵な虎メダルを作ってくれたファンが批評を読んでどんな気持ちになるか、想像してからこのコメントをしたのだろうか。
分かっているうえで「ふざけているようにしか思えない」と言ったのだろうか。

チームだけでなく、タイガースファンの思いも否定されたような気がして、悲しくなった。

順位争い、CS争いに向けて負けられない試合であったことは間違いない。今シーズン最後の伝統の一戦で真剣勝負を期待するのは評論家として当然のことだと思う。
けれども真剣勝負を楽しみにしている人と同じように、虎メダルを楽しみにしている人だっている。「試合は負けちゃったけど虎メダル見られてよかったね」と思うファンもいる。そんなファンの存在に、ちょっとだけでも目を向けてほしかった。

すべての人に配慮しろなんて言わないけれど、「ふざけている」だなんてあんまりだよ。
そんな言い方しないでよ。

「ファンともっと!プロジェクト!」のきっかけは、矢野監督の「ファンの方が甲子園に来れなくても、自分たちに何かできることがあるんちゃうかな」という発言だった。こんな素晴らしい試みを続けてくれた矢野監督やタイガースには本当に感謝している。僕もチームの一員として一緒に戦っているような思いを持ちながら、日々の試合を楽しく真剣に見ることができた。
あの評論を書いたOBが僕のnoteを見るはずがないけれど、虎メダルのパフォーマンスを楽しんでいるファンがいる事実は、こうして書き残しておきたい。

タイガースの公式戦は残り7試合。まだまだ虎メダルのパフォーマンスが見たい。残りの試合で1回でも多くメダルをかけるシーンを見たい。矢野監督や糸井さんのいるこのチームを、1日でも長く応援していたい。選手たちと一緒に喜びを分かち合いたい。

それが、僕の願いだ。

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