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2塁ベース上の昂り【9/11 対中日戦○】

佐藤輝明がグラウンドであんなに感情を爆発させたのは、一体いつ以来だっただろう。

2塁ベースに到達したところで両手を大きく動かして4度手を叩いた。あふれる感情が抑えられず、思わず仕草に出る。それだけこの打席にかけていた。
6回のピンチをしのいで迎えた裏の攻撃。5番・原口文仁の懸命なつなぎの打席で2アウトながら満塁のチャンスとなった。打席には佐藤輝。今シーズンはほとんどの試合で4番をつとめてきたが、9月6日の試合から6番を打っている。この日みたいにチャンスで巡ってくることも少なくない打順だから、佐藤輝に入ってもらいたい気持ちも十分に理解できる。

だが、本人の気持ちはどうだろう。
4番の座を守れなかった。そんな思いが体を巡っているんじゃないだろうか。


佐藤輝の代わりに4番に入った大山悠輔も、かつては4番という打順について何度もその思いを口にしていた。

4番で打ち続けたい。
4番が打ったら勝てる。打てなかったら負ける。
試合に負けたら4番の責任。

大山の言葉からは並々ならぬ執念を感じた。

「なにもそこまで……」と思うこともあったけれど、きっとあの強い執念が彼を高みまで連れて行ったのだろう。1度与えられたら簡単に手放したくない。レギュラーの座と一緒で4番という打順にはそういう重みがあるのかもしれない。


実際は別の意図もあるはずなのだろうけど、4番から6番への移動を「打てないから打順が下がった」という見方をする人がいた。それも間違ってはいないかもしれない。けれども、佐藤輝の悔しがる姿を想像したら、考えることすらちょっと嫌になった。関係ない人からあーだこーだ思われるのって、つらいから。

高めに投じられたボールを、佐藤輝が振り抜いた。ものすごい勢いで打球が一二塁間を破っていき、あっという間に外野の深いところまで到達した。1塁ランナー、2塁ランナーが続けてホームインする。わずかに1点だった点差は、3点に広がった。再びタイガースが試合の主導権を取り戻す一打に、佐藤輝も感情を爆発させた。

この男には、躍動感ある仕草がとにかく似合う。

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