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阪神・大山悠輔を心に宿してみたら毎日のQOLが上がった話

朝のWeb会議の時間まで1分50秒。会社のあるビルの入り口を走り抜けた。

右手で「申し訳ない」というジェスチャーをしながらエレベーターに飛び乗る。7階に着いたらダッシュして、入り口のドアにカードキーをかざす。そしてすぐにPCを立ち上げれば会議に間に合うはずだ。
ポーンという軽い音と同時にエレベーターのドアが開いた。一目散に走り出す。カードキーを出すのに手間取ったが、ギリギリで間に合った。

Web会議に間に合ったのは良かったが、画面に写る自分を見て愕然とした。顔には汗が滲み、髪は乱れ、表情には焦りの色が分かりやすく表れている。印象は最悪だ。「遅れなくて良かった」とは思えなかった。
大きく荒れた息を整えながら、僕は静かに決意した。

「今日から大山悠輔になろう」

ファン待望の長距離砲

大山悠輔。阪神タイガースの主軸を長らく務めているスラッガーだ。今年の6月は特に絶好調で、1ヶ月の間に10本のホームランを打った。6月3日の北海道日本ハム戦では、自身二度目の1試合3本塁打を記録。チームは6点差を逆転し勝利した。7月3日の中日戦では通算100本塁打を達成している。

大山の魅力は豪快な打球だけではない。その人柄だ。とにかく丁寧で謙虚だ。
試合が始まって守備につくとき、大山は審判や相手チームのコーチへの一礼を欠かさない。多くの選手は帽子をサッと取る流れの動作で軽くペコっと頭を下げる。大山は背筋をピンと伸ばし、腰から上をゆっくりと下げる。頭を下げた状態で静止し、そこから再び顔を上げる。ファンの拍手に応えるときのお辞儀も美しい。就活生向けのマナー本にお手本として使われていても違和感ないだろう。

試合前に一礼する大山悠輔

大山の人柄の良さはプロ入り前から知られていた。白鴎大学の野球部員だった頃、チームメイトと食事をした帰りで赤信号に出くわしたときのエピソードだ。
 「俺は行かない。こういうのが(野球に)つながると思うから。絶対に信号無視なんてしないよ」

大山の行動や姿勢は、社会人の先輩として見習うべきところがあるのではと思った。今さら彼のようになれるとは思わないけれど、せめて少しでも近づいてみたい。

だから僕は、心に大山悠輔を宿すことにした。

心の中に大山悠輔を

やり方は簡単だ。日々の暮らしの中で「大山だったらどうするだろう」と想像する。大山がやらなそうなことはしない。もちろん急いでいるからって信号無視もしない。
反対に、大山がやっていることは積極的に取り入れる。これだけだ。
試しに6月の1日から30日の1ヶ月間、大山を心に宿してみた。

実験初日。オフィスの正門にいる守衛さんにあいさつをする。いつもは急ぎ足でテキトーにあいさつしていたが、軽く立ち止まってお辞儀をした。ちょっと怪訝そうな顔をされたが気にしない。これしきのことでくじけてしまったら、心の中の大山に顔向けができない。仕事が一息ついた時は大山の好物でもあるミルクティーで気分転換をした。

実験3日目。同じ仕事仲間や後輩への声かけにチャレンジしてみる。大山といえば試合中何度もマウンドに駆け寄ってピッチャーに声がけをする姿が印象的だ。一塁を守ることが多い今年は、特にその回数が増えた気がする。ある1週間で調査してみたところ、大山がピッチャーに声をかけた回数は1試合あたり6.5回だった(筆者調べ)。
大山のようにやってみようと思ったが、案外これが難しい。邪魔にならないだろうかと深読みしてしまう。
だが、マウンドに集まっているときは野球以外の話もしていると言うじゃないか。僕もならって仕事と関係ないことも話してみた。仕事が終わった帰り、家で猫を飼っている大山にならって、猫の癒やし動画を見た。

実験14日目。マンネリ化しつつある仕事を任された。ちょっと面倒くさい。だけど、どの打席でも全力疾走を欠かさない大山ならどうするだろう。PCの前でもう1度気を引き締め、前より気合いを入れて仕上げた。大山は長風呂が趣味なので、この日はゆっくり湯船に浸かった。

1ヶ月過ごしてみて

こうして、大山を心に宿しながら1ヶ月を過ごした。
会社の人に「とびた君ちょっと変わったね」と言われるようなことは、別になかった。後輩から声かけのことも特に言われなかった。それもそうか。
ひと月くらいでは人の印象は変わらない。大山はこれをずっと続けているからこそ、多くの人から慕われているのだ。そもそも、大山だって周りから良く思われたくてこれらの行動をしているわけではないはず。だから、これで良いのだ。

変わったこともある。日々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が上がったような気がした。落ち着いた気分で過ごせるようになったのだ。断じて長風呂の効果ではない。
信号に捕まっても予定の時間までに目的地に到着するためには、ゆとりを持って家を出る必要がある。丁寧なあいさつをするにも、まず自分に余裕がないと気が回らない。大山らしく過ごすために、色んなことを準備して臨むようにした。結果、落ち着いて過ごせるようになった。
そうか、大山がよく言っている「準備の大切さ」ってこういうことなのか。

心に宿したところで体重は減らないし、出世の話も舞い込んでこない。でも毎日をちょっと穏やかに過ごせるライフハック「心の中に大山悠輔」。ぜひミルクティーを飲みながら実践してみてほしい。継続すれば大山のような大きなホームランが打てる、かもしれない。

【参考】
阪神・大山 変わらない真面目さ 大親友がエール「優勝と悠輔にはタイトル取ってほしい」(デイリースポーツ 2022.04.17)


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