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迷うな突き進め江越大賀【2/20 対中日戦○】

「野球ファンって、どうしてキャンプを見るんですか?」

オンライン上でのとある交流で一緒になった人から、こんなことを聞かれた。
野球好きの間ではキャンプ情報を仕入れることはもはや当たり前のことだ。けれども、野球に関心のない人から見たら不思議に映るかもしれない。どうして公式戦も始まっていない段階で練習を見に行くのかと。そのときの僕は「普段はあんまり出番が巡ってこない選手がグラウンドにいるのが見られる」「練習後はサイン会などのファンサービスが受けられる」みたいなことを答えた。質問してくれた人は納得してくれたみたいだった。その人が言った「推しに会える公式の接触イベント」という表現は、言い得て妙だと思った。

あのときは言わなかったけれど、僕がキャンプを見る目的はもう1つある。参加している選手たちの変化や今シーズンにかける想いを観察するためだ。プロ野球のシーズンが終わって春のキャンプが始まるまで、だいたい4ヶ月くらいある。長いようで短いこの間にどんなことをやってきたのか、それが分かってくるのがこのキャンプなのだ。観察とはいっても数値化できるものではないから、何となく分かった気になるだけのことも多いけれど。

キャンプ中継を見始めて1週間位が経っただろうか、がっしりとした腕の「背番号25」が気になった。まだ言葉にするのは難しいけれど、いままでの彼とはなんだか違うものを直感的に感じた。

江越大賀。今年でプロ8年目になる外野手だ。プロ1年目でいきなりホームラン5本、2年目には7本と、早くから長距離打者としての片鱗を見せていた。プロは超人的な能力と技術を持つ人たちの集まりだけど、その中でも江越の身体能力はずば抜けている。
だが、打撃の確実性の低さが欠点でここまで思うような活躍ができていないのは、野球ファンなら知っているとおりだ。3年目以降で放ったホームランはわずか1本。ここ2年間ではヒットすら出ていない。

僕の勘違いだと良いのだが、江越の打席を見ていると、何か、ずっと、迷っているように感じるときがある。迷いなく次の塁を狙う走塁を見せてくれた江越と、打席で迷っている江越。まるで別人のようだ。迷いや疑惑のループにはまると、簡単には抜け出せなくなる。迷いがさらなる迷いを生み、最後は何のことで迷っていたのか分からなくなる。両打ちに挑戦した時期もあった。迷っていることだけは伝わってきた。

ドラゴンズとの練習試合。序盤で1点を取り合うもその後は続かず、1対1で最終回の攻撃を迎えた。1死走者なしから佐藤輝明が左中間へ2ベースヒット。「サトテル」はいつも僕たちの想像を超えてくる。次のバッターは江越。
打席に向かう江越が今までと比べて、なんだか堂々としているように見えた。ドラゴンズ・藤嶋健人が投じた2球目。低い弾道で右中間に打球が伸びていき、そのままフェンスに当たった。打球が転々としている間に、走者がホームインした。見る者を皆驚かせる、まさに江越らしい打球だった。

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この試合の後、ネットで公開されていた江越の特集記事を読んだ。オフシーズンに取り組んだ打撃改造について、自らの言葉でこう語った。

「これでダメならもういいや、という気持ちが強い。やってダメだった方が後悔がないので。周りどうこうより、自分が納得した形でやるだけなので」

決して投げやりになったコメントじゃない。やっと、やっと自分で納得できる何かを見つけて、とことんやり込めたのかもしれない。そうでなきゃこんな自信に満ちたコメントは出てこないはずだ。

この日の構えにも、打球にも、迷いは感じられなかった。
迷いが消えた江越は、強い。


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