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最終回とM.ロハスJrと小幡竜平と【3/25 対ヤクルト戦●】

いつの日かの東京ドーム。この日は終始タイガースが優勢で、勝利をほぼ手中に収めていた。それでもオレンジのグッズを身に着けたお客さんはまだ座席でグラウンドに目を向けている。8回の攻撃。打者は阿部慎之助。試合の雰囲気を変える力のある打者だ。
だが阿部は力のない内野フライに倒れ、ベンチに戻っていく。阿部を封じたタイガース。勝利が近づくのを確信した。すると、さっきまでとは打って変わり、客席に人の流れが生まれた。やれやれ、と帰り支度をしてジャイアンツファンが席を立ったのだ。

もし自分が帰ったあとに阿部がホームランを打ったら後悔する、だからもう少しだけ見て帰ろう。たとえ試合が負けていても、阿部の打席だけは見ておきたい。ジャイアンツファンにとってそういう気持ちにさせる魅力があるのだろう。ファンも認めているのだなと感じた。そして、そう思わせてくれる選手がいるジャイアンツのことを、このときは少しだけ羨ましく感じた。

7点差をひっくり返された最終回。テレビ中継のカメラはたくさんの阪神ファンを映していた。前まで当たり前だった満員のスタジアム。まさかこの光景がとても新鮮に感じる日がくるなんて、想像もしていなかった。
先頭のJ.マルテが打ち取られ、4番の佐藤輝明が打席に入った。オープン戦の好調そのままに今日も3安打。タイガースファンの皆が彼の一打に期待していた。だが佐藤輝は2球で追い込まれ、最後はライトフライに倒れる。今年から加入した新人の丸山和都のグラブにボールが収まった。

厳しいか。

現地のファンはそう感じたのか、続々と球場を後にしていた。意気揚々と乗り込んだ開幕戦でこの逆転劇だ、無理もない。とはいえ、「負けているけどせめて佐藤輝の打席だけ見て帰ろう」と思わせる選手がタイガースに生まれようとしている事実は、嬉しくもある。

でも、それでも。僕はひねくれているから、その後のことを考えてしまうのだ。

「まだ諦めてないやつがいるじゃねえか」って。


2死走者無し。M.ロハスJrの2022年シーズンは代打で始まった。FUNKY MONKEY BΛBY'Sの代表曲「ヒーロー」をバックに打席へと向かう。今日のマルテとロハスは2人ともヒーローを登場曲にしていた。矢野燿大監督が現役最終年に使っていたこの曲を。言葉は違っても、伝えられる思いがある。僕には伝わった。

ロハスはスワローズの守護神・S.マクガフのボールに食らいついていく。ファウル、ボール、ファウル、ボール、ファウル、ファウル。追い込まれてからは、なんとか三振だけはしないように。自分のことだけを考えたら大きな当たりを狙ったほうがアピールになるはず。でもロハスはチームが勝つためのベストを尽くした。マクガフの10球目、ロハスの粘りが四球を呼び込んだ。


ロハスが歩いて、打順は守備固めから出場していた小幡竜平。そのまま打席に向かう。小幡はこの場面で代打を出されない選手になった。去年とは違う。打席でも何とかしてくれるかもしれない。その信頼を小幡はオープン戦で勝ち取った。
小幡は2球目をセンター前に弾き返した。2死走者なしから、1打同点の場面を作った。プレー中はクールな印象がある小幡が、拳を強く握りしめていた。「このまま終わっちゃいけない」。ロハスと小幡がそう言っているような気がした。

そこから先は、よく覚えていない。

糸原健斗と糸井嘉男の大活躍、リリーフ陣大爆発、途中出場組の粘り。たった1試合で起きた出来事に脳みそを揺さぶられたような気分だ。

改めて、プロ野球が始まったことが現実として感じられた。
良いことも、悪いことも立て続けに押し寄せてくる刺激の数々。
これから142試合、この日々が続いていくのだ。

0306_ロハス05

苦しくなったら今日のロハスと小幡の姿を見て自分を奮い立たせよう。
そう決めた。
これしきのことで崩れるチームじゃないから。

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