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410字のショートショート

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#ショートショートnote杯 と同じく、410字以内で完成されたショートショート作品。
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#物語の欠片

足りない料理店|#完成された物語

「足りない」 それが店長の口癖だったよ。 売上が足りない、客が足りないといった定番のモノから、従業員、名物メニュー、評判、そして看板娘まで……まったく聞いてるこっちがウンザリしちまったよ。 ある日のこと店長はこう言ったんだ。 「食器が足りない」ってね。 やれやれと思ったよ。 働いているから分かるけど、別に食器が足りなかったことなんて一度もない。他のものだって全部そう……足りないと思ってるだけ。 私はいい加減にウンザリしてつい文句を言っちまった。 「足りないのは

使命を果たす男|#完成された物語

最初は目にゴミが入っただけだと思ったね。 それは……異様だったから。 それは黒い歪んだ球体のようにも見えて、極彩色の人型にも見え、半透明な獣のようなシルエットにも見えた。 五感とは別の新たな感覚器官が備わって、それで視えてるという感じなんだ。 そんなものが僕の目ー 便宜上”目”ということにしておくけどー に映るようになった。 最初は道端でたまに見かける程度だったのに、それは日に日に増えていった。 そのうち目を閉じていても視えるようになった。 僕は気が狂いそうにな

昆虫たちの世界|#完成された物語

それは嵐の夜のことだった。 僕とシンはボスの座を継ぐための度胸試しをすることになっていた。 「あの赤い花まで先に到着した方の勝ちだ……いけ!」 ボスのその言葉が合図となり、僕らは一斉に飛び出した。 嵐の中の飛行は困難を極めた。 * 先にしくじったのは僕だった。木の枝に衝突して羽を痛めたのだ。 シンはその事に気づいていたのだろうか。 * その後、花に辿り着いたシンを待っていたのは死だった。赤い花は罠だったのだ。 戻った僕に対してボスはそう明かした。 「上に

おじいちゃん部|#完成された物語

最近、公民館の予約表に『おじいちゃん部』がよく登場する。 「何かしら、おじいちゃん部って。老人会の男性版?」 私は気になって部屋をそっと覗いてみることにした。 すると、当然というべきかおじいちゃんたちが居座っており、映画を見ながらガヤガヤとしていた。 「映画好きの集まりだったのね」 そう納得して立ち去ろうとすると聞き覚えのある声が耳に入る。夫の声だ。 そして視線を戻すと夫がタバコを咥えている。 「あんた!医者から止められてるでしょ!」 「お、お前……これは違う