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ショートショートnote杯の作品

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ショートショートnote杯で投稿した作品です。 https://note.com/simpeiidea/n/n494a3af60f97
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2021年10月の記事一覧

しゃべるピアノ

その男は毎日のように路上でピアノ演奏のパフォーマンスをしていた。 彼の演奏はそれは素晴らしく、ピアノでの演奏の限界を超えているようにさえ感じさせるその音色は人々を魅了し、多くの投げ銭による収入を得ていた。 しかし、ある日のこといつものように彼が演奏していると急に演奏が止まってしまい、それと同時に咳き込んだような音が聞こえてきた。 彼の演奏を見ていた観客たちが何事かとピアノに駆け寄る。彼は日頃からピアノに近寄ることを禁止していたが、一度起きてしまった流れは止められない。

数学ギョウザ

僕がそのギョウザを買ったのは部活帰りのことで、なんとなく普段と違う道で家に帰っている途中に小さなギョウザ屋さんを見つけ、運動後で小腹が減っていたので買ってみたのだ。 その効果を理解したのは、そのギョウザを平らげて数学の宿題を解いているときだった。 「あれ、簡単に解ける?」 どうやらそのギョウザを食べてから半日程度は数学力が上がることが分かり、僕は”数学ギョウザ”と名付けた。 その日の朝、僕は大量の”数学ギョウザ”を食べてから登校した。今日は数学のテストなのだ。 テス

違法の冷蔵庫

その違法に改造された冷蔵庫の性能はすさまじかった。 4つの巨大な車輪に水平対向エンジンとジェットエンジンを搭載し、空気抵抗を極限まで減らすように設計された空力ボディーは戦闘機を連想させるデザインで、その加速性能は時速100kmに達するまで5秒、最高時速は500kmに至るほどだった。 男は週末になってはそのマシンに搭乗し、高速道路を轟音とともに走り抜けていた。当然スピード違反であったが、警察のパトカーが追いつけるはずもなく、毎度のように逃げ去っていた。 しかし、ある日つい

株式会社リストラ

俺は火人多新、株式会社リストラに務めてる。 人員整理が必要な会社から依頼を受けて、内部潜入・調査した上で手助けする、リストラの外注みたいなもんだな。 俺も潜入して調査するのが表の仕事だった。 そう、俺は裏の仕事もやってた。 どうやってか俺のような人間の正体を突き止めちまう人間が居る。そしてこう言うわけさ「この無能な人間をリストラしてくれ」ってな。 分かるだろ? 気に入らない上司。ムカツク同僚。自分を振った女性社員。そういう気に入らない奴をリストラしてくれって訳さ、

アナログバイリンガル

”アナログバイリンガル”、それが皮肉を込めた言葉として使われるようになって20年以上が経つ。 23世紀の後半になった現在、全人類が電脳化しており、地球上のコミュニケーションはデジタル言語に統一されていた。 昔は多言語を話せるというのは特技と見なされていたが、その必要性がなくなった現代では”デジタル”との対比として”アナログバイリンガル”なんて呼ばれるようになった。 まったくひどい話だ。 そんなある日、私は道端で倒れて叫んでいる男に出会った。周りに人が囲んでいるが誰も彼

1億円の低カロリー

私は昔から動くことが大嫌いだった。 外で遊ぶよりも家で本を読んでいる方が好きだったし、歩くのだって嫌だった。 いつからか私は自分を低カロリーな女だと自覚するようになった。 動くのも、しゃべるのも、感情だって、最小限でいい。 そんなある日のこと消しゴムが私の足元に転がってきた。授業中のことだ。 普段であれば無視するのだけど、持ち主が隣の男子だったので拾ってやることにした。 私だって羞恥心くらいはあるのだ。男子に下から覗き込まれたくはない。それにこのくらいの動作なら低

コロコロ変わる名探偵

「さて、今回の事件だけれど」 そうやって私が切り出すと一同が表情を固くする。 「今回の事件は難しく見えて実は単純なの」 私は続ける。 「B子、あなたが犯人ね」 「いやいや待ってよ!私にはアリバイがあるのよ!」 「そう、B子が犯人に見えるけど違うの…アリバイがないC子が犯人なのよ」 「ちょっと待って!私にはあの凶器を扱うことはできないわ!」 「そう、C子こそ真犯人に見えるけど、隠れた動機を持ったD子が犯人なの」 「ちょっと、私だってアリバイがあるじゃない!動機だって

空飛ぶストレート

俺はいつだって真っ直ぐに飛び続けていた。 まわりに何が飛んでようが、あるいは地べたを這っていようが俺には関係ない。ただ飛び続けるだけだ。 しかし、ある日のこと俺は自分を曲げちまうことになる。 HELP! その救助信号を受信した俺はなぜか柄にもなく向っちまったんだ。別に助ける気があったわけじゃないのにな。 近づくとそいつはひどい事故にあっていて、放っておけば命はない状況だった。 放っておいてもよかったんだが、どうしてか俺は助けに向っちまった。その時のやつの表情は忘れ

金持ちジュリエット

舞踏会でお互い一目惚れしたロミオとジュリエットだったが、ティパルトから決闘を申し込まれたロミオは彼を死なせてしまった故に街を追放され、ジュリエットはロレンス神父から仮死状態になる薬をもらって飲んだ結果、死んだような様相で墓場に横たわっていた。 「あぁ、なんてことだジュリエット」 横たわるジュリエットに声をかけるロミオ。 「君がいない世界なんていらない。僕も君の世界に行くよ」 そう言って、懐から短剣を取り出し自らの腹に突き立てた。 * 「目覚めましたかお嬢様」 「え

君に贈る火星の

やぁ、元気にしてるかな? 今は火星なんだけど、1日が地球と同じ24時間くらいってのは過ごしやすいね。やはり地球での生活リズムが身体に刻みこまれているようだよ。 今さらだけど、君を置いて宇宙に飛び出してしまって済まなかったね。いや、ここは謝罪じゃなくて感謝すべきか。理解してくれて本当にありがとう。 ところで今も私を愛してくれているのかな?案外、私が飛び立ってすぐに新しいパートナーでも見つけてたりしてね。 冗談だよ。まぁそうされても仕方ないけどね。 私? もちろん今だ