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小説の感想・レビュー

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読了した小説の感想・レビューなどです。
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#読書感想文

彼女がエスパーだったころ|感想・レビュー ★3.5

読了したので感想です。 まえがき氏の作品は、 『超動く家にて』 『偶然の聖地』 『盤上の夜』 『エクソダス症候群』 『ヨハネスブルグの天使たち』 に続いて6冊目です。 氏の代表作とされるものは、だいたい読み終えた形になるでしょうか。 うち、後半の4冊についてはレビュー記事を書いています。 短くまとめるとスプーン曲げなどの疑似科学(超常現象)を題材にした、6編の短編から構成されるSF短編小説。 著者らしいアイディアや洞察・哲学がしっかりと含まれており、SF

ヨハネスブルグの天使たち|感想・レビュー ★4.5

宮内悠介氏の『ヨハネスブルグの天使たち』を読了したので感想です。 前回の『エクソダス症候群』と同様に、2回連続で通して読んでしまいました。 短くまとめると近未来を舞台にした、ディストピア・哲学色の強いSF短編連作集。 戦争や内戦・テロといった重いテーマが扱われており、また氏の作品の中でも難しい部類に入るため、氏の作品の入り口としてのハードルは高め。 しかし、意識・生き方・愛・社会・宗教など、哲学的に考えられる内容であり、考えさせられる作品が好きな方にはおすすめ。 ハ

エクソダス症候群|感想・レビュー ★4.5

宮内悠介氏の『エクソダス症候群』を読了したので感想です。 短くまとめると精神病をメインテーマに扱ったSF作品。 ミステリ的な要素も含んでおり、精神病という重いテーマでありつつもエンタメ作品として完成している。 膨大な参考文献をもとにした文章は、専門用語などが多く難しい内容にもかかわらず、圧倒的に読みやすく、また著者の筆力の高さを再認識させられる。 重く、暗い内容でも問題ないという人には、是非とも読んでほしい1冊。 まえがき著者の作品は『超動く家にて』、『偶然の聖地』

盤上の夜|感想・レビュー ★4.0

宮内悠介氏の『盤上の夜』を読了したので感想です。 短くまとめると囲碁・チェッカー・麻雀・将棋などのボードゲームの知識が無いと、十分に楽しめない側面もあるが、それでも読む価値がある短編集。 著者の圧倒的な筆力による文章は、純文学的な美しさも内包しており、読書好きには特におすすめしたい一冊。 まえがき著者の作品を読むのは『超動く家にて』、『偶然の聖地』に続いて3冊目です。 感想本作はボードゲームを題材とした6つの短編集からなる作品です。 盤上の夜(囲碁) 人間の王(チ

逡巡の二十秒と悔恨の二十年|感想・レビュー ★3.5

読了したのは少し前なのですが感想です。 なお、以前の感想・レビューでも書いたように、私は小林泰三氏のファンです。 短くまとめると氏の持ち味がしっかり出ている、非常にバラエティに富んだホラー短編集。 過去作へのオマージュも含まれるので、そういった点もファンにとっては嬉しい収録。 氏の作品が好きなら買って損は無いと思うが、わりと刺激が強めな作品が多い(と思う)ので、氏の作品に読み慣れていない方は他の作品から入ったほうが無難。 概要本書は、小林泰三氏の作品のうち雑誌などに

麻倉玲一は信頼できない語り手|感想・レビュー ★4.5|変化球だがエンタメ性が高いミステリ

読了したので感想です。 * 短くまとめるとエンタメ性がとても高いミステリ。 人によっては続きがどんどん気になって一気読みしてしまうはず。『硝子の塔の殺人』や『悪の教典』などが気にいる人は合うと思う。 帯に書かれた紀伊国屋書店員さんの一言が良い。 * ”信頼できない語り手”私は太田忠司氏の作品を読むのは初めてでした。 Web上のミステリまとめ記事か何かで本作を知り、タイトルに含まれる”信頼できない語り手”という文言に非常に惹かれて気になっていました。 ミステリが

天体の回転について|感想・レビュー ★4.0|小林泰三氏らしい短編ハードSF

小林泰三氏のSF短編小説『天体の回転について』を読了したので、かんたんに感想・レビューです。 * 短くまとめると表紙で躊躇してしまう(人も多いと思う)が、氏の持ち味がしっかり出たハードSF短編小説。小林泰三氏の作品が好きなら買って損はないはず(エロ・グロ要素も少なめ)。 同じく氏のSF短編小説である『海を見る人』よりも”ライト”な仕上がりなので、SFに慣れていない人はこちらのほうが読みやすいかも? * 私の小説に最も影響を与えている作家最初に断っておきますと、私は小

ヨルガオ殺人事件|感想・レビュー(★3.5)|前作が気に入ったならオススメ

今、一番話題になっているであろう海外ミステリ作家、アンソニー・フォロヴィッツ氏の『ヨルガオ殺人事件』を読了したので感想です。 短くまとめると面白くないことはないけれど、傑作にはほど遠い。 作中作は相変わらずおもしろいが。 『カササギ殺人事件』などの著者の作品が気に入った人は合うだろうけれど、そうでない人はやっぱり合わないのではないか。 * カササギ殺人事件私は『カササギ殺人事件』から同氏の作品に入りました。海外ミステリとしては珍しく話題になっているようだったので、試

偶然の聖地|感想・レビュー(★4.0)|普通の小説に飽きている方へオススメしたい1冊

読了したので感想です。 読む前私は『超動く家にて』というSF短編小説から著者を知りました。 書店で見かけて気になって購入したのですが、面白いSF短編がたっぷり詰まっていて、気分で買った小説としてはかなり当たりでした。そして、本作を読んだときに”この作家は本当に筆力のある人だ!”と感じました。 個人的に”筆力”と”面白い物語を考える能力”は全く異なるスキルであると考えています。 例えば、日本で一番有名な作家といえば東野圭吾氏(*1)に他ならないと思いますが、個人的に筆力

密室から黒猫を取り出す方法|感想・レビュー|★3.0

読了したので、軽く感想です。 * 概要北山猛邦氏によるライトな短編ミステリ『踊るジョーカー 名探偵音野順の事件簿』の2作目です。 来年には3作目が数年ぶりに出版されるとかどうとかで、その流れがあって本作も文庫化されたのかもしれません(文庫化は2021/1/29)。 引き続き、気弱な名探偵である音野順が事件を解決するというのがメインストーリーになっており、前作と同様に5作の短編が収録されています。 密室から黒猫を取り出す方法 人喰いテレビ 音楽は凶器じゃない 停

medium 霊媒探偵城塚翡翠|感想・レビュー(★2.0)|あるいは誇大なキャッチコピーの罪について

読了したので感想です。 * 読み始める前本屋に行けば必ずのように平積みされ、目に入るのは『ミステリランキング5冠!』という謳い文句。そして、帯の背には『すべてが、伏線』という○○トリックの存在を暗示させるような、読者への挑戦状とさえ感じさせるような強烈な謳い文句。 まぁ、少しでもミステリを読んでいる人間であれば、これを読まずには居られないと感じるでしょう。 私も以前からずっとこの作品は気になっていたのですが、最近 Twitter で文庫化されたのを知って、この機会に読

踊るジョーカー|感想・レビュー|★3.5

読了したので、軽く感想を書いてみたいと思います。 概要北山猛邦氏によるミステリ短編集となっており、以下の5作品が収録されています。 踊るジョーカー 時間泥棒 見えないダイイング・メッセージ 毒入りバレンタイン・チョコ ゆきだるまが殺しにやってくる 気弱で自信の無い名探偵『音野順』と推理作家の『白瀬白夜』の2人が、ホームズとワトソンのような立ち位置で一緒に事件を解決していくという内容になっています。 ◆ 感想どれも70ページ前後の短編として仕上がっていて、サク

ぼぎわんが、来る|感想・レビュー|★4.0

映画化もされている『ぼぎわんが、来る』を読了したので軽く感想を書いてみたいと思います。 なお、映画版である『来る』は未視聴です。 * 作品の概要本作は『第22回日本ホラー小説大賞』で大賞を受賞した、澤村伊智氏によるデビュー作品で『角川ホラー文庫』から出版されています。 私自身は澤村伊智氏の作品を読むのは、『予言の島』、『邪教の子』から続いて3冊目に当たります。つまり、どちらかというとミステリ方面から著者の作品に入ったという流れです。 ◆ 感想さて、私にとっては久し