乳がんに対する手術後の腋窩ウェブ症候群

Koehler LA et al. Breast Cancer (Dove Med Press). 2018. PMID: 30588087


要約

・腋窩ウェブ症候群(AWS, axillary web syndrome)は、乳がんに対する同側の腋窩リンパ節摘出を伴う手術後に発生し、86%程度までの患者に認められると報告されている。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)では、腋窩部の皮下組織に1本または複数本の索状の構造が認められる。
・索状構造が認められる範囲はさまざまで、同側の上肢 および/あるいは 胸壁に同様の構造が認められることもある。
・腕を挙上させた際には索状構造に疼痛が認められ、肩の可動域が制限される。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)は手術後2週間から8週後に症候性となることが多いが、手術から数ヶ月から数年後に再発することもある。
・患者や介護者に対して腋窩ウェブ症候群(AWS)に関する説明を行うことが重要である。
・特にリンパ節郭清が行われた場合には、定期的な診察時の腋窩ウェブ群(AWS)の評価を行うことが大切である。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)では徒手的理学療法、エクササイズ、患者教育や他のリハビリテーションにより疼痛を軽減し肩の可動域を改善できるため、理学療法が推奨される治療である。


背景
・腋窩ウェブ症候群(AWS)は腋窩リンパ節郭清(ALND)を伴う乳がん手術後に認められることが多いが、しばしば見逃されることも少なくない。
・外傷後や感染、センチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清(ALND)を伴う悪性黒色腫に対する手術後などにも認められる。
・文献的には腋窩ウェブ症候群(AWS)と同様な意味で、"cording"、 "lymphatic cording”、 "fibrous banding"などの用語が用いられることがあり、誤ってMondr's diseaseと混同されてしまっているものもある。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)では腋窩部の皮下組織に硬い索状構造物を触れる。
・索状構造物が認められる範囲はさまざまで、同側の上肢の正中部や正中の手のひら、胸壁部に認められることもある。
・肩関節を外転させる/腕を挙げる際に索状物が痛むことが多い。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)は乳がん手術後2~8週後に発生することが多い。
・しかしながら、最近の研究では手術後数ヶ月から数年後に発生した例も報告されており、その後の再発の報告もある。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)の発生頻度は乳がん手術後の6~86%と報告されている。
・報告により発生頻度が異なる理由は様々であるが、術後に腋窩ウェブ症候群(AWS)の有無を重点的に評価されたかどうかが重要であるように思われる。
・また、腋窩ウェブ症候群の発生率は術式や経過観察期間によっても異なる。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)の発生に関して慎重な評価がなされている最近の2つの前向き研究では、1つの研究では術後18ヶ月時点での腋窩ウェブ症候群(AWS)の発生割合は50%、もう1つの研究では8週以内の発生割合51%と報告されている。
・センチネルリンパ節生検後(11%-58%)と比較して、腋窩リンパ節郭清(ALND)後(36%-72%)に腋窩ウェブ症候群(AWS)の発生率が高い。
・理由は不明であるが、対側乳房の予防的切除術が行われた患者で腋窩ウェブ症候群(AWS)の発生率が最も高かった(86%)。
・痩せ型(lower body mass index)、若年、教育レベルが高い人、運動習慣のある人、郭清リンパ節の数が多く、切除範囲が広い場合、手術後にアジュバント化学療法や放射線治療が行われた場合に腋窩ウェブ症候群(AWS)の発生率が高かった。
・現在と比較して、従来の腋窩ウェブ症候群(AWS)と診断精度は高くなかったが、これは現在では多くの医療者や患者がこの症候群の徴候や症状を認識するようになったからであろう。
・また、腋窩ウェブ症候群(AWS)を認知していた医療者であっても、理学療法という治療選択肢があることを知らない場合には、患者に対する腋窩ウェブ(AWS)に関する説明を怠っていた可能性がある。
・手術後のケアでは、がんに対する治療計画に焦点が当てられており、腋窩ウェブ症候群(AWS)のような生命への脅威が少ない身体機能の障害への関心は比較的低いものであった。
・患者は、手術後には乳腺外科医や放射線腫瘍医、腫瘍内科医など様々な医師と関わることになり、自分の症状を誰に相談すべきか、また治療法のアドバイスを誰に求めるべきかを知ることが難しい場合もあった。
・医療者はそれぞれ自分たちがよく知る症状の対処に努めており、腋窩ウェブ症候群(AWS)に対する対処がおろそかになっている可能性がある。
・今回のレビューの目的は、腋窩ウェブ症候群(AWS)の徴候や症状、合併症、診断や治療法を概説することである。

サインと症状

・腋窩ウェブ症候群(AWS)では、腋窩部の皮下組織内に1 mm程度の直線的な1本のまたは複数の索状醸造が認められる。
・索状物は同側上腕の正中または正中-手掌部や同側の胸壁の側方縁に沿って伸びることもある。
・腕を進展した状態から外転させることにより索成物が見え、触知できるようになる。
・ある研究では、50%以上の患者では視診では確認できず、慎重な触診が必要と報告されている。
・その他の研究では、70%以上の索状物は触知が可能で、その他の者は視診でのみ確認できたと報告されている。
・腕を肘から伸ばし、十分に外転させると基本的にすべての索状物が触知でき、多くは皮膚の線上構造として確認できる。
・腕をまっすぐ伸ばし外転させない場合には、索状物のテンションがゆるみ、索状物がはっきりしないこともある。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)は手術後2~8週後に診断されることが多い。
・最近の前向き研究では、腋窩ウェブ症候群を発症した患者の94%は4週間以内に自己評価ツールを用いた診断がなされていた。
・他の前向き研究では、慎重な評価を行うことで手術後7日以内に66%の腋窩ウェブ症候群を検出することが可能であった。
・また、腋窩ウェブ症候群は数ヶ月から数年後に認められることもあり、寛解後に再燃することもある。
・従って、手術後3~6ヶ月間は腋窩ウェブ症候群の評価を慎重に行う必要があり、その後の評価間隔は開けてもよいものの、3年程度までの定期的な経過観察が必要である。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)発症時には、主に肩の外転時に上肢の動きの制限が認められ、腕を動かすことにより索状物にテンションがかかるために疼痛や不快感を伴う。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)に関して説明が行われていない場合には、索状物に気づかない可能性もある。
・腋窩ウェブ症候群(AWS)の診断が遅れた患者では、それに伴う症状を”通常の”回復過程と信じてしまう場合もある。
・症状は索状物の部位によって異なる。
・肘に索状構造がある場合には肘を伸ばすことができなくなる。
・このような患者では上肢を体幹部につけた"sling-like position"で来院する。
・肘から以遠の索状構造の進展はセンチネルリンパ節生検が行われた患者と比較して腋窩リンパ節郭清(ALND)が行われた患者で多く認められる。

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