ニューヨーク州司法試験の受験記③ 【MBE対策】

1 はじめに

本記事は以下の記事の一部という位置づけです。まずは以下の記事を読むことをお勧めします。
ニューヨーク州司法試験の受験記①【目次】

2 MBE対策

どんな試験か

  • MBEは短い問題文を読んで、4択の中から正解の肢を選ぶ択一試験です。試験範囲は7科目です(増田先生のブログの表がわかりやすいです。)。180分で100問を解く試験を2回こなします(合計200問)。全体の中での配点の比率は50%です。

  • 配点の比率が最も高い、努力が得点に結びつきやすい、英語が苦手な日本人でも得点源にしやすいなどの理由から、最も重要度が高く最も重点的に対策がとられる試験です。

どのくらいの正答率を目指すべきか

  • NY Barの合格基準点は400点満点中266点以上で、そのうちMBEの配点比率は50%ですので、200点満点中133点以上がMBEの合格ラインです。ただし、この133点というのは調整後の得点(scaled score)であるため、200問中133問正解すればよいという意味ではないことに注意が必要です。

  • 200点満点の場合、scaled scoreは概ね素点(raw score)の10~15点増しになりますので、正答率61~63%(200問中だと122~126問正解)が合格ギリギリラインです。問題演習で正答率を目安にする際は注意しましょう。なお、本試験では採点されないダミー問題が25問出ますので、厳密には175点満点中の正解数からscaled scoreが計算されます。もっとも問題演習の際には純粋な正答率を把握しておけば問題ありません。

  • 上記で合格ギリギリラインは正答率61~63%と書きましたが、日本人の受験者の場合はより高い正答率を目指すべきです。過去の日本人合格者のデータを見るとはっきりとEssay(MPTとMEEの合計)の得点が低い傾向が見て取れます。具体的にはMBEよりもEssayの得点が10~20点程度低い傾向があります。やはりEssay partは英語のdisadvantageが大きいようです。したがって、日本人受験者はMBEで多めに点を稼ぐべきです。

  • どのくらいの正答率を目指すべきかですが、MBEでscaled score150点を取れれば、Essayは120点(全受験者の下位20%の水準)で合格ラインの266点を超えます。したがって、MBEでscaled score150点(raw scoreだと正答率70%弱くらい)を取れれば安全圏といえるのではないでしょうか。

何問くらい過去問を解くべきか

  • 巷では2000問の問題演習をこなせば合格に必要な力が付くと言われています。もっとも正論を言えば形式的に数をこなすことに意味はありません。極端な話、各科目の基礎的な知識が身についていれば問題演習はゼロでも合格点をとることは可能かと思います。しかし、2000問の問題演習をこなす余裕のない人は、その前提の知識のインプットも不十分であることが多いように思われます。したがって、2000問を解いたことはそれだけしっかり事前に対策をしたことの目安になり、合格レベルに達していることの推定が働くと考えます。

  • なお、上記の「どのくらいの正答率を目指すべきか」の項目に書いたとおりMBEの正答率が70%を超えれば安全圏と言ってよいと考えます。したがって、問題演習で正答率が安定して70%を超えるようであれば、演習量が2000問に達しなくてもMEE対策に重点を移してよいと筆者は考えます。正答率が一定のラインを超えると演習のコスパが低下するためです。自信を持って解答できる問題は解いてもあまり得るものがありません。

解答のスピード

  • MBEは180分で100問を解く必要があるので、1問にかけられる時間は1分48秒です。演習の最初は、おそらく全く時間内に解けないと思います。筆者もそうでした。ただ、これはあまり気にしなくて大丈夫です。問題演習をこなし、知識が定着していくうちに時間内に解けるようになってきます。解答の速度が習熟度を測る目安にもなります。個人差はあると思いますが、演習の際に100問を150分程度で解けるようになっていれば本番で時間が足りなくなることはまずないと思います。時間配分のシビアさはMPT>MEE>MBEという印象です。

いつ勉強を開始すべきか

  • MBEは最も配点の比率が高い試験であり、NY Bar対策はまずはMBE対策から着手すべきです。MBE科目は、MEE科目とも共通していますので、MBE対策はそのままMEE対策にも繋がります。

  • NY Bar対策の開始時期は、①LLM修了前に着手する慎重派、②LLM修了後(5月下旬)から着手する穏健派、③LLM修了後暫く経ってから着手する急進派に分かれます(ネーミングは適当)。②が多数派だと思いますし、効率的に対策すれば②で十分間に合うと感じました。もっとも、早めに着手するに越したことはないので、英語や試験に苦手意識のある方はLLM修了前から着手することをお勧めします。③は精神衛生に悪く、落ちるリスクが高まるのでお勧めしません。

  • 筆者は、LLM修了後の5月20日頃から着手しました(上記②)。早めに着手したい気持ちもありましたが、LLMの勉強がそれなりに大変であり中々モチベーションがわきませんでした。早めに着手する場合はモチベーションの維持が課題になります。勉強仲間を見つけるとよいのではないでしょうか。

筆者がとったインプット

  • MBEのインプットにはいわゆる日本人ノートを使用しました。具体的には、まずは各科目の日本人ノートを一読し、その後はすぐに問題演習(詳細は後記「筆者がとったアウトプット」参照)に入りました。問題演習の答え合わせの際に日本人ノートの関係する個所を読み直すことで、知識の定着を図りました。さらに、試験直前期に再度日本人ノートを1周しました。これは択一プロパーの細かい知識を再度取り込み、短期記憶で本試験を乗り切るためでした。

  • 筆者はMEE対策のためにSmartBarPrepのSmart Sheetsを暗記しました。MBEと共通の科目については、MEE対策のSmart Sheetsの暗記が日本人ノートの不足している部分を補ってくれたと感じています。Smart Sheetsの使い方について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。

  • 日本人ノートに対しては、不正確であるなど否定的な意見もありますが、筆者はMBEの基本的なインプットは日本人ノートで足りると感じました。MBEは四択の中で答えを探せばいいので、多少不正確であっても問題は解けます。また、MBEの問題演習やMEE対策をする中で、日本人ノートの誤っている部分や不足している部分については徐々に分かってきます。日本語でまず頭に入る資料というのは非常に有用で、依然として効率的なインプットに最も適した教材ではないかと考えます。

  • Barbriのビデオ講義はタイムロスが大きいため一切受講しませんでした。聞いて知識を頭に入れるタイプの方は、ビデオ講義を利用してもよいかと思います。その場合は早めに着手した方がよいかもしれません。

  • Barbriのoutline(Lecture Handouts for MEE-MBE)も流し読み程度に見てみたのですが、科目によって作成者が異なるため形式に統一性がない、講義を視聴することが前提になっており効率が悪い、そもそもTortsのoutlineがない(!)などの理由から使えないと判断しました。

MBEの問題演習には何を使うべきか

  • Barbriの配布する問題はオリジナル問題であり本試験とは傾向が異なるため、別途実際の過去問に触れた方がよいと考えます。もっともBarbriだけでNY Barを突破している先人も相当数います。要するに基礎的な知識が身についているかどうかに尽きると思います。独自問題も基礎的な知識の確認に役立ちますので、全く使えないわけではないと考えます。 

  • 本試験の過去問を収録しているサービスとして、Emanuelの問題集AdaptiBarJD Advisingなどがあります。Emanuelは紙媒体の問題集、後2者はオンラインで利用できるサービスです。Emanuelの収録問題数は約700問なので、2000問の演習をするには他社サービスと併用する必要があります。AdaptibarとJD Advisingはそれぞれ2000問近く収録問題数があるはずですので併用は不要かと思います。

  • EmanuelのMBE問題集の最新版は Strategies & Tactics for the MBE (Multistate Bar Exam) 7th Edition(2019年12月発行)です。EmanuelのMBE問題集は2冊目もあるのですが(2020年4月発行の3rd Editionが最新版)、試験対策に割ける時間が限られていることや、評価が1冊目に比べて劣るなどの理由で、1冊目のみ使用する人が多い印象です。 

  • 筆者は下記「筆者がとったアウトプット」のとおりEmanuelの1冊目とBarbriの問題集を併用する方法をとりました(JD Advisingも直前期に少しだけ使用)。実際に解いた印象では、まずBarbriのオリジナル問題は確かに本試験と傾向が異なると感じました。具体的には本試験よりも問題文がかなり長い割に、問題が捻られていない印象です。ただし基礎的な知識の確認にはなりましたので、無駄ではなかったと感じます。

  • 他方、Emanuelの問題集は解説が詳細で優れていると評判ですが、個人的には解説が冗長過ぎると感じました(さらに問題集が物理的に重すぎて携帯不可能)。解説を全て読んでいる時間は到底ないと考え、間違えた問題と自信がなかった問題の解説のうち、気になった個所に絞って読みました。JD Advisingは直前期に少し使用したのみですが、こちらの方が解説が簡潔であり使いやすいと感じました。この辺りは好みの問題かと思います。Adaptibarは使用していないのでわかりません。

筆者がとったアウトプット

  • EmanuelのMBE問題集から約700問、BarbriのMBE問題集(Multistate Practice Questions)から約1100問(全部は解けず)、JD Advising提供の過去問200問の合計約2000問を解きました。間違えた問題は翌日復習しました。具体的にどの時期にどの問題を解いて、正答率がどれくらいだったのかは、こちらの記事に記載しています。

  • 筆者は6月の第2週のやや早い時期に、Emanuelの問題集のPractice Questionsの200問とBarbriのSimulated MBE(通称Barbri模試)の200問を力試しに解きました。正答率はそれぞれ72%と76%でした。ここでMBEは合格水準に達していると判断し、MEE対策に重点を移しました。このタイミングは個人差があると思います。

受験後の感想・得点

  • 本試験は問題演習のときよりも難しく感じたという感想を聞いたことがありますが、個人的には特に違いは感じませんでした。少し前の受験者はBarbriの問題集のみを使用していた方も多かったところ、Barbriの問題は本試験と傾向が異なるためそのように感じた方もいたのかもしれません。筆者が問題演習で利用したEmanuelやJD Advisingは実際の過去問を収録していましたので、違いを感じなかった可能性があります。

  • 筆者はリモート受験だったので試験時間の区切りが異なり、90分で50問を解く試験を4回こなしました。毎回20分くらいは時間が余った記憶です。演習のときよりは慎重に解いたので若干余る時間が減りました(演習のときは50問を60分くらいで解いていました。)。

  • 開示された得点は、164.5点(Scaled Score)でした。Raw score(素点)だと150点前後(約75%の正答率)と思われます。これは問題演習のときと概ね同じ正答率であり、受験時の手応えと一致しています。 

  • なお、本試験の点数はBarbri模試よりも高めに出るという噂(?)があります。しかし、Barbri模試の得点はraw scoreなので、scaled scoreに換算すると点数が上がったように見えるだけではないかと考えています。本試験で大幅に点が上昇することに賭けるのは危険と考えます。

3 おわりに

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