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【読書】カンザキイオリ『親愛なるあなたへ』

こんにちは、小清水志織です。

今回はnoteで読書感想文に初挑戦したいと思います。しかし、色々と感想文の書き方を考えてはみたのものの、結局は満足のいくものになりそうもありませんでした。そこで私は、著者であるカンザキイオリさんにファンレターを書く、という体裁で感想文を綴ることにしました。なぜなら、それが物語の主人公の1人、小倉雪の行動とシンクロするだけでなく、カンザキさんへの感謝も伝えられると考えたからです。以下、最後まで読んでくだされば幸いです。

本:カンザキイオリ『親愛なるあなたへ』(河出書房新社、2021年)

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親愛なるカンザキイオリ様へ

初めてお手紙を書きます。小清水志織と申します。ツイッター上で新刊『親愛なるあなたへ』の発売を知ったとき、私はとても驚きました。まさか、大好きなアーティストであるカンザキさんが、小説をお書きになるなんて…と。今思えば、私はとんでもない無知でした。私は今年の7月にカンザキさんの音楽に出逢ったばかりの人間で、昨年も小説『あの夏が飽和する。』を発表されていらっしゃったことを、まったく知らなかったのです。

仕事帰りに最寄りの書店へ駆け込み、平積みされたご著書を手にしたときの感動。たったその一瞬で、生活に忙殺される間に忘れていた本への憧憬と興奮を、思い出すことができました。

とても嬉しかったのは、既に1ページ目からカンザキさんの世界が拡がっていたことです。

親愛なるあなたへ
私は私になれるでしょうか
こんな体でこんな見た目で自分を愛せるでしょうか
親愛なるあなたの爆弾になれるでしょうか
あなたの全てをぶち壊すような
そんな夏になりたい

元々はボカロ曲として創作された「爆弾」のサビを呼び水にして次々と紡がれる言葉は、カンザキさんの想いがぎゅっと凝縮されていて、ワクワクが止まらなくなりました。

爆弾/カンザキイオリ

2人の主人公、柿沼春樹と小倉雪のことで少し。春樹は小説家、雪はミュージシャンを目指しており、何かを「生み出す」点で共通しています。でも、各々の事情から好きなものを好きと言えない弱さも抱えている。そんな2人が、周囲の人々から影響を受けて少しずつ成長していく様子がリアルに、繊細に、ときにコミカルに描かれており、感情移入すること頻りでした。

雪が春樹の小説に感動してファンレターを書くわけですが、読み進めるにつれてこのファンレターの意味と物語世界への影響をじわじわ感じて、ここでも感動しました。

物語のハイライトは、なんと言っても雪の曲である「爆弾」ですね。現実のカンザキさんが創った曲を、物語のなかで雪が歌うことで、現実とフィクション、音楽と小説の境界線を超えてシンクロする、新しい創作の在り方を提示していると思いました。小説を知らない状態で「爆弾」を聴いてもよしですが、読後に改めて聴くと、登場人物たちの感情が一挙に私に押し寄せてきて、思わず泣いてしまいました(私の場合、オリジナルであるボカロの方を聴いた時点で落涙してたのですが)。春樹の父をテーマとした「不器用な男」や、春樹自身の葛藤を歌う「偶像」(購入特典による先行公開で聴きました)も物語と溶け合っていて、とても好きでした。

爆弾/初音ミク

不器用な男/カンザキイオリ

あと、これは考えすぎかもしれないのですが…。物語に登場するモチーフのなかで、カンザキさんが楽曲提供されているVシンガー、花譜さんの要素がありませんでしたか!? 花譜さんの観測者ファンなら分かる、思わずニヤっとなるような要素や言葉が点在していた気がしたので…。私の気のせいなのでしょうか…。読みながら勝手に、花譜さんのMVが頭のなかを去来していました(勘違いでしたらごめんなさい…)。花譜さんの歌も大好きです。

花譜 YouTubeチャンネル

全体を通して、ずっと物語への興味が尽きることなく読み続けられました。ほんとうに、ほんとうに面白かったです。この一冊で作品は完結しますが、この後の展開は、実はいかようにも想像できるなと思いました。まさに「世界線が分岐する」ような期待に心地よい余韻をもって浸っています。

素敵な物語を、ほんとうにありがとうございました。カンザキさんの音楽とともに、これからも楽しみに待っています。私もカンザキさんや物語の主人公たちのように、優しく、負けずに、しっかりと生きていけるよう頑張ります。どうか体調にはお気をつけて、残りわずかの今年と、来年のご活躍をお祈りしています。

拙い文章で申し訳ありません。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

  小清水志織

 


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