千切る、赤い糸

 運命の赤い糸の話を聞いたことがあるだろうか。ある男女が、見えない、けれど赤い糸で結ばれていて、最終的にはその二人が文字通り結ばれる。そんな子供が考えたような話。だと思っていた。

最初に”それ”に気が付いたのは小学生の頃だった。蜘蛛の糸が太陽の光に宛てると、その輪郭が綺麗に見えるように、”それ”は人の左手薬指からどこかへ伸びていき、その軌道が太陽の光に照らされて見えたのだ。最初は何の糸なのかわからず、母親に聞いてもそのような糸はないと一蹴されてしまった。
 けれども母の薬指から伸びる糸は、リビングで新聞を開いている父の薬指につながっていた。
 それから私が運命の赤い糸の話を知ったのは、小学校の頃だった。都市伝説かなにかの本を図書室で借りた時、載っていた。まさに私が見たそのものだったのだ。

中学になった。友達に彼氏が出来た。彼氏を嬉しそうに私に紹介してきたのだ。しかしながら互いから延びる線は、それぞれ明後日の方向へと向かっていた。私はただ、そうして喜ぶ友を慮り、作った笑顔で
「おめでとう」
とだけ言っておいた。

時々、私の指から延びるこの線が、誰につながっているのだろうかと疑問に思うことがある。常に西の方へと延びてその先が見えない。元来より東京に住んでいることから、千葉の辺りにいるのだろうか。この先結びついてしまう男を知りたくもあり、どこか禁忌を犯しているような心持もする。

 高校も終盤になった。人並みに将来の進路について悩んでいる。この辺りは、見えないものが見えること以外は普通の人間なのだと実感する。将来のこと、大学のこと。何もイメージが思いつかない。



ふと魔が差した。第一志望の大学を指し示すそこには、西にある、千葉の大学を書いていた。

そうして順調に、あるいは運命的に、千葉への下宿が始まった。ここでの生活は刺激的だ。何しろ糸が東西南北様々な方向へと向かっていくのだ。間違いなく、私の運命の人はすぐそこに居る。 


 また魔が差した。顔を拝んでやろうか。品定めしてやる。

私は糸の方向目掛け、歩みを進めた。糸が指し示す人物を見て思わず足が固まった。ちょうど糸の終着点、目指した先にあった煌びやかなネイルを施した指の持ち主は、女性だった。
あまりの衝撃に、立ちすくんでいると、その女がこちらの方へ近づいてきて━━━━

鋭い痛みが腹部に走った。刃物を腹に差し込まれたと理解したのは暫くたってからだった。
理解出来ぬまま意識が遠のいていく。ぼやけた視界の中に、女が嬉しそうにこちらを見ているのが分かる。女はそのまま私の唇へと接吻を交わし、自分自身の腹部にも刃物を突き刺した。

消えかける意識の中で、運命というのはあまりにも残酷で、逃れられないものなのだと悟った


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