生きた証

分娩室。新たな命が一つ、産まれる場所。

だが、赤子の鳴き声ではなく、妊娠6ヶ月で破水してしまった女があげる悲鳴が響き渡る。

「これは……手術室に移りましょう」

医師が淡々と呟く。赤子はまだ母親の中で息をしている。看護師が血だらけになった下半身を持ち上げ担架に載せ、手術室へと向かった。

鳴き声にもならない声を上げ、一つの命が生まれた。しかし、流産ということもあり、体重は500gにも満たない。低出生体重児というものだ。産まれた途端、専用の機械に管を繋がれ無理やり生かされている状態。夫婦はガラス越しにしかそれを見ることが出来ない。
 「このまま何も起きなければ順調に大きくなると思います」
医師の言葉を頼りに見守る。
突然、容態が急変した。感染症を引き起こしたのだ。医師からはもう助からないかもしれないと言われた。これ以上苦しませるくらいなら、とも言われた。
泣きながら母親は、医師に言った。
僅か5日ほどの、儚い人生だった。

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