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「とある7人のキャリア」 短編小説集

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7人の人物を通して描く、7つのキャリア開発の物語。全9万字程度のボリュームを複数回に分けて投稿します。ミステリー、ヒューマンドラマ、純愛、経済、異世界転生といったジャンルで作り分…
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#ビジネス小説

短編小説|部長のイス #2

2.失った大義 「部長、今週末のゴルフコンペですけどFチームの僕と交代してくれませんか?」 「なぜだ?」 「専務と営業室の室長も一緒じゃないですか、ちょっと提案したいことがあって」 本心は分からないが止める権利も必要性も感じないから承諾した。 その後、オレにはさっぱり理解できない社内のゴルフトーナメントに参加した。スコアは100、無難なところだ。 役員やその部下がボソボソと「何か」を話しながらゴルフに興じる光景は、健全な気持ちでプレイする気にはならない。オレ自身は終始口数

短編小説|部長のイス #3

3.従わない者の末路 「・・・ということで、来年度から査定評価制度が大きく変わる。各室長は間違いのないように」 「部長、一つ確認したいことが」 明朗快活で頼れるオレの右腕である架橋室長が質問する。 「この新制度だと、現状の査定下位メンバーの査定額が下がるように見えるのですが・・」 「そうだろう・・な」 「つまり、そういうことですか・・?」 「・・・・新制度の説明はこれ以上は無い」 会社の給与体系の改革に伴い、労働組合員(係長以下の従業員)の査定評価変更の説明をしていた

短編小説|部長のイス #4

4.避けられない罠 「さっきの報告会、上手くいきましたよね?」 「そうか?本質的な課題はこれからだと社長は言ってたと思うが」 「いえいえ、部長考えすぎですよ。さっさと経理に買収の段取りを・・」 「待て待て、この件はまだ計画を詰める必要があるだろ?まだ始まってもないぞ?」 「まぁ私だったら段取り済ましておきますけどね」 既存事業室の向谷室長はしたたかだ。 1歳年上の割にはオレの部下という立場を弁えていて、「部下」という役割を全うしてくれる。この事業企画部の古株でもあるから仕

短編小説|部長のイス #5

5.左遷 「最近、君の厳しさについてウワサをよく聞くのだが、何かあったのかね?」 「厳しさとは何でしょう?自分に正直に行動しているだけですが」 「それならいいのだけど、いくら変革の時代だからといって、君のところは変わりすぎではないかね?」 「そうでしょうか?私は、変わるというより進化を目指していますから」 そうやって、何かを言いたそうな山西専務を追い払った。 5人。 これは、オレが事業企画部の部長に就いてからこの部署を去った人数だ。 2人は、オレが着任してわずか2か月の