見出し画像

220605 露と枕『帰忘』

「劇」小劇場へ。

2020年どらま館で上演予定だった『帰忘』は中止になったとHPにあって、2年前の私ならどう見たかなと考えた。静かに過去が語られ、強く怒りが叫ばれ、恋愛感情について、愛して生きることについて描いたこの作品を、当時の私は大好きだと書きそうな気もするし、恋愛かぁ…と書きそうな気もする。でも好きなんじゃないかなぁ。

今日観て、好きだなぁ素敵だなぁと思う一方で、自分の好き嫌いの「嫌い」、というか違和感、何となく好きじゃなかったかも、に自信を持って言語化するのはまだまだ難しいなと思う。自信はない。好きも嫌いも、どちらでもないも、ここに書けたらと…長い!いいから書く

寂しさも報われなさも、故人の帰らなさもありながら、それでも忘れられない、忘れない温かさを、冷たさを描いていた。ドラマを見ている感覚。カメラを通してでも見たいかも。

登場人物8人が、皆それぞれの言葉を話していて、似た話し方をする人がいなくて、でも一人一人がキャラクター的でなくきちんと多面的で、矛盾もある人間で、すごく素敵、書き分けが好き…!と思った。

観劇後に友人と、登場人物の性格や人生や、事故の真相についてあれこれ話したんだけど、その物語がすっと私たちの中で受け入れられているのがすごいと思った。物語そのものへのつっこみはない。いきなり解釈の話からできる。これってすごい!とか思う。
物語に疑いがなくて、真剣にあれは事故だったのか?とか誰が自殺したくて誰がしたくなかったんじゃないかとか、真剣に話しちゃった。他人に解釈したいと思わせる、解釈できるくらい緻密に書くのはすごい。こういう読み方もできるよね、っていう脚本てどうやって書くんだ!すごいなぁ。
登場人物の台詞も、物語そのものも、隙のない完成された脚本だった。

友人は共感出来たと言っていたから難しいのだけど、私は かおるさんに違和感があったなぁ…。ずっと棘のある言葉を叫んでいて、男性陣が前に進もうとする度、「何にも知らないんだね!!」と挟む、という印象があって、観客として薫にもっと寄り添いたかったと思ってしまった。彼女が敵に見えてしまって、和解せずとも対話してほしい、と思ったまま物語後半へ。終盤の、男性陣とかおるが「またね」の約束をする場面までが長く感じた。苦しかったというか、すこし苛立ちもあった。でも彼女の叫びは何ら間違っていないし、素直な自然な、かおるという人間の感情が真っ直ぐに伝わってきていたから、なんと言ったら良いんだろう…でも好きになれなかった。

友人が音が大きかったと言ってたけれど、確かに。BGMはそこまで思わなかったが、携帯の着信のバイブはうるさかった。

金森さんの台詞の読み方、素敵だった。一番好きだったなぁ。映像でも見てみたいと思える感じ。小劇場だったからそれに近い見方ができたけれど、細かいところまで、台詞の音程とか動きとか、頷き方とかがとても素敵だった。

あと個人的に桂さんの話し方は知人にとても似ていて、ちづるさんは同期にとても似ていた。何だか嬉しかった。いるいる!と思える登場人物が多かった、ということでいいのかな…?8人もいたのに、すごく見やすい舞台だった。

男性陣、という書き方をしてしまった、金森さん、桂さんら婚約者5名。結婚、家庭というテーマが、もしかしたら私は嫌かなと思ったのだけれど、そこまで男!女!という描き方ではなくて嬉しかった。かおるさん、あの勢いなら「男には女の気持ちなんか分からない」というようなことを言いそうでもあったけれど、そういう感じは私はしなかった。でも、逆が有り得たか、死にたい男性5人が女性との結婚直前に亡くなるという物語が成立したかというと、難しい気がする。この差、違和感はなんだろう。

金森さんの「明日も同じ時間に寝るよ」素敵な台詞。ほんのちょっとの、どうでもいい、でも大切な未来があって、明日も元気であなたと一緒にいるよ、という思いがどれだけささやかで脆くてどれだけ幸せなのかを思ったら泣けてしまった。星野源の『布団』みたいな感覚かな。その後の桂さんの、「録画していたドラマ」、「2日目のカレー」も良かったけど、金森さんのあのセリフがあったからこその良さ。

桂さん「愛していますよ、今でも。」そうだよね、そうなんだよね。なんで話してくれなかったの、なんで気づけなかったの、なんで話せなかったの、なんで気づいてくれなかったの。もう交わせないなんで、がある気がして、切なくて、寂しかった。

脚演の井上瑠菜さんの言葉を、メッセージを私はちゃんと受け取れただろうか。私は何を伝えたい人間なのだろうか。私の好き嫌いってどんなだろう。芝居を見ていると結局自分のことばかり考えてしまうのだけど、それでも良いのだけれど、でもちゃんと受け取れたかな。受け取って心地よかったもの、好きだったもの、違和感があったもの、本当はもっともっとちゃんと言葉にしたい。それでも、井上さんの言葉の柔らかさと多さを、少しでも体感できているなら、忘れずにいられるなら嬉しい。金木犀の香りと一緒に、また思い出したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?