“コントの中”に招待してもらった日(前編)

「コントの中の人たちが何をしているのか気になりませんか?」
イベント詳細に書かれたその言葉が今日のライブの全てを表していた。

6月26日、夏どころか梅雨すらも明けてないと言うのに、ねっとりとした暑さを引きずる黄昏時。
新宿バティオスと言う小さな劇場で、そのライブは始まった。
「コントの中の人たち」……タイトルの通り、コントの登場人物について掘り下げることをテーマにした、コント好きによるコント好きのためのコントライブである。

オープニングでは今回のライブを企画したサメゾンビ滝田さんが大いに声を張り上げ、場内を盛り上げつつライブへの熱意を語り、客席だけでなくMCで一緒に出ていたかが屋加賀さん、フランスピアノなかがわさんをも笑わせていた。
3ヶ月と言う時間をかけ、このライブを準備したと言う滝田さん。キャンセルが出てしまったことを残念そうにしていたが、正直今回来れなかった方に関しては本当に気の毒だと私は思う。
それだけ完成度が高く、最高に面白かったからだ。

客席へと配られたアンケート用紙は劇場などで見慣れたものとは違い、まるで台本のように出演者とタイトルが縦書きに印刷されていた。

かが屋「文化祭」「文化祭の人」
空気階段「隣人」「隣人の人」
サメゾンビ「記憶喪失」「記憶喪失の人」
フランスピアノ「浮気」「浮気の人」
フレンチぶる「潮騒」「潮騒の人」
リクロジー「遅刻しそうな高校生」「帰宅する高校生」
ロマン峠「人見知り」「人見知りの人」

そして最後に、
お客様「感想を書く人たち」と、あった。
私はこれが大変嬉しかった。

コントというのは舞台上の芸人たちが繰り広げる物語で、完全に<コントの中>という世界にいる。舞台の上と客席とでは世界が違うのだ、笑い声や拍手は届くけれども、決して彼らはコントの世界からは出てはいけないのである。
そこへ、滝田さんは私たちをコントの世界のお客役として巻き込んでくれた。
あのアンケート用紙を、今日の世界観への招待状のように感じたのだ。


MCで充分に暖まった会場を受け渡されたトップバッターはリクロジーさん。浅井企画のピン芸人だ。
制服姿で現れた彼は高校生の日常をあまりにもリアルに切り取ってみせ、あの頃ああいう子いたな……と懐かしい気持ちになるほど。
母親に対する思春期特有の荒れた口調ながらも、お礼を言ったりと本当は良い子なのだな、としっかり伝わってくるキャラクター。テレビの録画問題で家族構成まで分かるところや、車の中で必死に視線を逃れようとしてのシートからずり落ちる姿を見て完全に心を掴まれてしまった。親子との会話や反応、バッグにちゃんと入っていた必須アイテムイヤホンへの安心感、友達とのやりとりなど、特別可笑しなことは何一つ言わないのに演技でしっかり笑わせるまさに職人技のコント。確かな演技力があるからこそ成立する笑いを作り出すプロだった。
マツモトクラブさんや曇天三男坊さんなどの演技派ピン芸人が好きな人はきっと彼のことも好きだと思う。
浅井企画のライブ、行かなくてはならない。


次に出てきたのは人力舎のロマン峠さん。
東京03さんのアプリ内ラジオ番組で彼らの名前を初めて知り、コントを見てみたいと思っていたので楽しみにしていた。
先ほどの、シーブリーズの匂いのしそうな高校生とは打って変わって、風俗のキャッチと客というコントなのだが、何と言っても平岡さんの気持ち悪さと言ったら素晴らしいとしか言いようが無い。どう書いたら伝わるだろうか…吹越満を発酵させてカビを生やしたような感じ……とにかくお手本のような気持ち悪さのある男が風俗のキャッチをしているのだが、あまりにも人見知りが激しく全然うまく客を呼べない。それなのに断られても断られても立ち向かっていく。客役である井上さんがなんども突っぱね、最終的にはどついて転ばしても立ち上がる姿、諦めの悪さが余計に気持ち悪さに拍車をかけるのだ。
そしてあれだけ何度も立ち上がるハートの強さを見せておきながら、井上さんの友達がやってきて客が二人に増えた途端に「知らない人が二人は無理!」とあっけなく退散してしまうコミカルさ。押していたと思ったら急に引く、というバランスにたっぷりと笑わされてしまった。


続いてはマセキ芸能社のサメゾンビさん。また戻って高校生の世界だ。
貧血で倒れた滝田さんをお見舞いにやって来たたくろーさん扮するみゆきが、滝田さんの記憶喪失であるという演技に付き合わされるという内容なのだが、記憶を戻すにはキスが必要だととにかくみゆきにしょうもない嘘でキスを迫るというのがなんとも可愛らしく可笑しかった。無理やりな設定のせいですぐボロが出るのに、わざわざもう一度頭を打ち直して記憶喪失をやり直してみたり、前世の記憶が戻ったと言ってみたり。最後は病院の先生が滝田さんの奇行を見咎め、CTを撮ると言って連れてってしまうのだが、みゆきとキスがしたい!という強い想いであんなにもバカになれる、そんなピュアさが眩しくて楽しかった。
そして、後半のアナザーストーリーで二人の関係をどう発展させていくのだと考えると、この時からワクワクが止まらなかった。

次はグレープカンパニーのフランスピアノさん。丁度先日、座・高円寺2で行われたK-Pro主催ベリーベストコントにて初めてコントを見させていただいたコンビだった。
夫であるなかがわが帰宅したところ、山本の演じる妻の浮気現場を目撃してしまうところから話は始まる。先ほどの淡い青春ラブストーリーとは真反対の世界だ。
押入れに逃げ込んだ浮気相手に気づかないフリをして夕飯の話をする夫に一瞬安心仕掛けるも、夫は椅子を押入れの前において「ここで食べる」と言う。つまりバリバリに気づいていて見張りながらその場で過ごすと言うのだ。
聞こえよがしに「会社の電話が来たから出てくる!」と言っては様子を見ようとしたり、もう寝ると言って押入れの前に寝具を用意してみたりと夫の圧のかけ方が恐ろしい。
とうとう妻がその圧に負けて腹痛を訴え出したのでトイレへと追いやった夫。
押入れを開くと、おそらく慌てている浮気相手に「逃げろ」と言う。
ベランダから逃げられるからと丁寧に説明して窓を開けて逃がしてやり、また押入れを閉めたところに妻が戻る。妻を懲らしめるべく質問攻めにしてみたりと精神的に追い詰め、とうとう妻が押入れを開けると、もちろんそこには誰もいない。
邪魔者がいなくなったところで別れ話をしだすふたり。
出て行けば。そうね、私ももっと広い家に住みたかった。キッチンも広くて…と家への不満を打ち明け出す妻。ベランダも無いし…。
そう、この家にはベランダなど無いのだ。じゃあ、さっきの浮気相手は……。
「ベランダはあったほうがいいな」
そう夫がニヤリと笑って物語は終わるのだった。


5番手はよしもとの空気階段さん。テレ東佐久間Pのお気に入りの芸人さんである。近いうちに佐久間宣行のオールナイトニッポンゼロに呼ばれないかなあ、と個人的に思っているところ。
アパートに引っ越して来た水川かたまりさんが上機嫌に歌い出す。なんだろうかど少々ざわめく会場に響く歌声に、すぐに「うるせえ!」と相方、鈴木もぐらさんからの怒号が飛ぶが、姿は無い。
どうやら相方は隣の部屋の住人のようだった。
うるさいと言われたことで壁の薄さを感じつつもなぜか歌をやめない水川さん。米米CLUBの曲を口ずさんだとき、急に隣人が一緒に歌い出して空気が変わる。
試しに最近の曲を歌うと再びうるさいと言われ、また選曲しなおすと今度はまた歌って来て、90年代が好きなんだとピンとくる。
そこで、それならばと今度は六甲おろし、島唄を続けて歌い、乗ってこないのを確認して北の国からの曲を歌って隣人が北海道出身であることを突き止める。
こうして姿を見ず会話もせずとも相手の情報を露わにしていくと言うなんとも巧妙な技が面白く、そしてシンプルに水川さんの歌のうまさに笑ってしまった。そのキー出るんですか……すごい……。最後はKinKi Kidsを歌って隣人が光一派であることまで突き止めたところで、とうとう隣人が上がり込んでくるのだった。
この時なぜか隣人はパンツ一丁の姿なのだが、この理由は後半のアナザーストーリーで明かされる。

6番手はケイダッシュのフレンチぶるさん。コントも漫才もこなすらしいお二人。
旅行雑誌記者の男女の恋物語なのだが、タイトルが潮騒なのがなんだかすごく良い。
3年前に亡くした婚約者を忘れられない女性と、その女性に想いを寄せる後輩のストーリー。舞台上から客席へと語りかけながら物語が進むので、無事に“その火を飛び越えて”結ばれる二人を私たちはしっかりと見守らせてもらえた。
切ない設定なのに面白いのはやっぱり加瀬部さんの女装のパワーなのだろうか。
日焼けあとのあるたくましい腕を惜しげも無く見せるノースリーブが大変よくお似合いの一見マニッシュな女性役なのだが喋り方が非常にフェミニンだった。
最初から最後まで女装の姿だったので帰りながら検索をしてみたらなんとスキンヘッド!ウィッグのセットめちゃくちゃきれいでまじまじと見つめてしまった。


前半ラストはマセキ芸能社かが屋加賀さん。今回は賀屋さんがお仕事と言うことでピンでの出演。
流石に二人のネタを一人ではこなせないのでと、Youtubeマセキ芸能社公式アカウントに載せている動画を流すことに。
https://youtu.be/Np_fKboo_6k

かが屋ファンなので公式動画は全て見ており、このネタももちろん見ていたのだが大画面で大勢のお笑いファンと一緒にネタを見られるというのはなかなか嬉しい贅沢な時間だった。
何と言っても加賀さんの表情豊かな演技。静かに書記を務めているだけのはずなのに、なんなら喋っている賀屋さんよりも多くを物語る。
落胆からの喜びや照れ。文化祭という高校の青春には欠かせないイベントでの繊細な感情の動きを喋らずに表現する技術は本当に素晴らしい。
この演技力に目をつけ、ドラマや映画などのオファーも来始めているのでは無いだろうか……芸人から役者になったらどうしよう……と勝手に心配をしているのだが、こんなにコントが好きな人なんだからそんなことはないな。と自己完結した。(……ないよね?)
後半ではこのコントで一緒に脱出ゲーム用のVTRを撮ることになった鈴木さんと加賀さんの物語が観れるのだが、鈴木さんのキャラがなかなか予想外の展開に……。
加賀さんの貴重なピンネタが見れ、これはファンとしてかなり嬉しかった。舞台上に加賀さんと椅子しかないはずなのに、使っている道具も鈴木さんもちゃんと存在する。コントの中で舞台を作り上げる天才を生で見れ、これで興奮しないコント好きがいるだろうか。
来て本当に良かった……。


中MCが入り企画へと移るのだが、長くなったので今回はこの辺りで。
本当に本当に贅沢なライブだった。コントが好きなら絶対行ったほうがいい。知らないコンビばっかりだし……と尻込みする必要なんか何一つない。どんな人でもコントの世界へと招き入れてくれるから、安心してぜひ飛び込んで欲しいと思う。


#イベントレポ #お笑い #コント #新宿バティオス #サメゾンビ #かが屋 #リクロジー #フランスピアノ #フレンチぶる #空気階段 #コントの中の人たち

この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?