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所得レイヤー

 百貨店の客単価が上がっているという。
 このニュースを聞いて首を傾げる人は多いのではないだろうか。何年も百貨店で買い物などしたことが無いという人もいるだろうからだ。

 経済産業省が公表している『消費者意識の変化と百貨店利用等に関する調査結果』という資料がある。
 これによれば、世帯年収と日常利用可能な百貨店の有無についてはこう書かれている。

・百貨店の利用者は、未利用者と比較して、500万円から2,000万円の中~高所得層が多い。
・百貨店の利用頻度は、日常的に利用可能な距離にあるかどうかが強く影響する。

『消費者意識の変化と百貨店利用等に関する調査結果』

 月1回以上利用しているヘビーユーザーのうち8割以上の人が日常的に利用できる距離に百貨店があると回答している。世帯年収が高くて近くに百貨店がある人がヘビーユーザーというわけだが、郊外に住む私の周りにはヘビーユーザーの傾向に当てはまるような人は殆どいない。


 購入する商品については、次のように書かれている。

・ヘビーユーザーは、「食料品」と「レストラン・カフェ」の購⼊を月1回程度以上行うユーザーが50%以上を占め、頻度が非常に高い。
・ヘビーユーザーは、すべてのカテゴリにおいて購⼊頻度が高い傾向にある。一方、未利用者は特に衣料品の購⼊でヘビーユーザー、ライトユーザーと大きな差がある。

同上

 いつもの食料品を含めだいたいの買い物はデパートで、立ち寄るカフェもデパート。そんなヘビーユーザーは、やはり私の知り合いにはいない。

 ところで、この調査のサンプル数はn=10,000となっている。そのうち百貨店利用者が9,000、それ以外が1,000とアンバランスだ。
 また、百貨店利用有無に関わらずアンケート回答者のうち世帯年収が250万円以上500万円未満の世帯数が1番多いのは同じだが、世帯年収が750万円以上の世帯の割合は百貨店ユーザーの場合は45%であるのに対し未利用者では30%だった。
 回答者の抽出が無作為であれば良いが、もし仮に百貨店ユーザーと未利用者に分けてサンプル収集したものを集約したのだとすると、結果が正しく実際の傾向を示しているかどうか分からない。結果に何らかのバイアスが掛かっている可能性があるのではないかと感じた。

 もっとも、このようなアンケート結果を持ち出すまでもなく、百貨店の客単価が上がっている理由は推して知るべしであろう。多くの人が百貨店に押しかけて高額の買い物をするようになってきているということではないのは誰でも分かっていると思う。つまり、結果に如実に現れるほどに分断が顕著になってきているということだと思う。
 この分断の広がりは格差が広がるのとは少し違って、レイヤーのようなものだと思っている。経済的な格差は一様に広がっているのではなくて、ところどころスポットのように集中した領域があるものだ。
 厚労省が公表している2021年の国民生活基礎調査のデータなどをもとに世帯所得区分ごとの全所得額に締める割合を試算すると、世帯所得500万円未満が19%、500万円から1000万円の世帯が27%、1000万円から2000万円の世帯がおよそ14%、2000万円以上の世帯が36%となった(図1)。
この試算はあくまで個人的なメモ的な試算であり信頼性の高いものではありません。以下同じです

図1 全所得金額に締める世帯所得区分(万円)ごとの金額割合

 日本の全世帯所得金額のうち36%は世帯所得2000万円以上の世帯が獲得しているという意味だ。このグラフに見られるような世帯年収レイヤーが大きく4つに分かれているというのは、個人的な実感に近いイメージだ。
 日本の所得額の36%程度を1%の世帯が獲得し、64%の額を残りの世帯で分配していることになる(図2)。

図2 世帯所得ごとの世帯数割合

 日本の世帯の平均所得は547万円、中央値は427万円と言われるが、図2で分かる通り500万円未満の世帯の数が全体の56%を占めている。日本の全所得額の19%分を56%の世帯で分けているイメージだ(図3)。

図3 所得の分配

 500万円から1000万円の世帯は、国全体の所得額の割合と世帯数の割合が近いことから、1番適切に分配されているレイヤーと言えるかも知れない。1000万円から2000万円の世帯はそれに次いで分配の歪みは少ない。
 そう考えると、現在の日本は大きく3つのレイヤーに分かれていると言っても良いだろう。すなわち、世帯所得500万円未満、世帯所得2000万円以上とそれ以外の3つだ。
 今後このレイヤーが4つに分かれていくのか、さらに極化して分断いくのか。何れにせよ分配が均等になる見込みが無いことは想像がつく。分配を均等にすることがベストなのかどうかは別としても、分断が進み過ぎることは良くないと思う。

おわり

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