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ドラマ『ミセン-未生-』

"道"とは歩むものではなく
前へ進むためのものだ
前に進めない道は道ではない

誰にでも道は開かれるが
全員が持てるわけではない

冒頭のナレーションに登場する言葉

 2014年のドラマだから今さらではある。
 でも出会ってしまったのだから仕方がない。

 持たざるものの成功への軌跡みたいな話はドラマや映画に良くあるプロットだが、このドラマは少し違う。かなり違う。
 そうしたドラマでフォーカスされているのは主人公の人生で、成功するのも主人公だ。その点がこのドラマは違っている。
 このドラマの本当の主人公はあなた自身なのだ。

 だから、あらすじを聞いただけで見るのをやめてしまうのは勿体なさ過ぎる。

 冒頭5分のアクションシーンに引き込まれるが、謎は謎のまま話は進む。
 このドラマに登場するのはエリート企業のエリート社員たち。そんな中、主人公のチャン・グレは高卒ですらなく、ビジネスに関して何の知識も特技もない26歳。とあるコネで大企業インターンのチャンスを得るが・・・。

 韓国の就職事情、会社事情は日本とは違う。ましてや約10年前だから現在の経済情勢とも異なるだろう。それでも、このドラマが今でも鮮度を失っていないのは、描かれているのが人だからだ。愛情、友情と言っても良いがそこに軽さはない。恋愛も登場しないほどストイックだ。
 社会の隅々の、そこにいて足掻いている人々は時を経ても変わらない。あらゆるシーンを観ながら、気づけば自分の人生の過去のシーンに重ね合わせていた。

 なぜ課長の机上にある家族の写真立てはいつも伏せられているのか。代理はなぜその髪型なのか。社内ではなぜサンダルを履いているのか。営業3課はなぜその場所にあるのか。なぜ主人公はプロ棋士を目指していたことを明かさないのか。そして、なぜ中東から物語が始まるのか。
 様々な設定が意味を持っている。様々なセリフが心に響く。
 良く練られた作品こそが持つリアリティに、観ているこちらはまんまと騙されて、頬を伝う涙を拭く間も無い。

 まだ死んではいないが生きてもいない石。韓国の囲碁の世界でミセンと呼ばれるこの石は、後の死活問題に関わる石でもある。

踏ん張れ
必ず勝て

ダメだと分かっていても
やり遂げろ
生きてれば
結末を知りつつも
やらざるを得ないこともある

最後まで見守れなくて
すまない

上司が辞職前に主人公に送った言葉


 連綿と続く人類の営みはこうして受け継がれて来たのだろう。
 最初から道があったのではない。
 人類が歩いたところが道になったのだ。

おわり


画像引用元:U-NEXT

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