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半導体の次に来るもの

 北海道に建設中の工場を訪れた首相は、日本の半導体産業に対する支援を強化すべく検討する方針を示した。しかし政府主導のこうした産業支援は、装置メーカーを潤すことはあっても、こと半導体産業にとって、何ら革新には繋がらないと私は踏んでいる。
 最新の生産設備を擁する工場である事を強調しているかに見えるが、今日の最新は明日には陳腐化する業界。日本が目指している2 nmプロセスでは、工場が完成して試作に入る2025年にはTSMCによって量産化されているはずだ。

 最新の半導体生産では工場が出来てからが勝負で、装置が揃ったとしても利益が出る価格で生産出来るようになるには時間が掛かる。極端な話、工場が稼働した当初は不良品しか出来ないのが当たり前で、歩留まりを上げるための製造条件を突き詰めるのは生半可なことではない。
 何とか量産出来るレベルになった時には、ライバル企業はもっと歩留まりを上げているから、価格競争には勝てない。つまり、先に手を付けた者に大きな利がある業界なのだ。先行者利益どころではなく、先行者以外は勝てない分野だ。

 現在、日本製半導体がメリットになりうるのは技術よりも価格だ。輸出先を前提とした場合、大幅な円安である場合にかろうじて価格競争力を維持できる。海外に比べて相対的に物価が安い今であればシェア争いに食い込めたかも知れない。
 しかしトレンドは円安から円高方向に舵を切った。日銀の利上げは期待できないまでも、米国の利下げは視野に入っている。それを見越して市場はドル買いの利益確定売りが続いて円高方向に大きく押している。
 このまま単調に円高になるとは思わないが、これまでのドル買いムードは無くなったと言って良い。
 そうとなれば日本の半導体に勝ち目があるとは、私には思えないのだ。

 結果としてのこれまでを俯瞰すればムーアの法則は正しかったかも知れない。しかしそれは半導体の集積度が上がることの予測である反面で、半導体価格が年々激減してしまうことを予知していたと言えるだろう。世の中に出回る半導体の総量が少なかった時代は需要が爆上げだったから良かったものの、飽和してしまった現在では新たな半導体ニーズを発掘する方が難しい。
 効率的な大量生産によって価格が下がることはユーザーにとっては嬉しい限りで、お陰で高速度無線通信が可能な高性能なコンピュータを片手で持ち運べるまでになった。しかしここのところは、爆発的普及力を備えたイノベーショナルな新しいデバイスは発明されていない。

 より小さくすることで実現可能になったことが無数にあるのは事実だ。小さくする欲求を人類はまだまだ忘れていない。しかしデバイスを身体と一体化出来るまでマイクロナイズするまでになると、スマホとは桁違いの拒否感や拒絶感を訴える人も出てくるだろう。
 どこかで大転換して反半導体になってみるのも面白い。新しい何かはどんな形で私たちの前に現れるのだろうか。

おわり

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