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シアターのサラウンド

私は映画のエンドクレジットは最後まで見る派だ。
高校生の頃から、最後の最後の方で出てくるPANAVISIONやDolbyのテロップが気になっていた。


(サムネール画像はYAMAHAの『独創の音場創生技術「シネマDSP」のすべて』から転載しました)

ビデオテープの時代

家庭用のドルビーサラウンドが出た当初はアナログのステレオ信号に折り込まれたリアチャンネルの信号を、AVアンプを介して後ろのスピーカーから出す仕組みだった。
当時の主な記憶媒体は、ビデオテープだ。

当時は後ろからも音が聞こえるというだけでワクワクしていた。
後ろの音と言っても、ハッキリとした方向性を持った音ではなく、画面で鳴る前の音に対し、それ以外の音という程度のぼんやりしたものだったが。

我が家で音に包まれて映画を見る時間は、映画を独り占め出来る至福の時だった。

DVDの時代

DVDの登場によりDolby DigitalやDTSというデジタルサラウンド音声が収録され、家庭でも複数チャンネルの音場が楽しめる技術環境が整った。
画質も音質もビデオテープに比べて格段に向上し、チャプターで望みのシーンに飛べることも新鮮だった。

この当時チャンネル数を表す数字として用いられたのが5.1で、Dolby Digital 5.1ch のように表記された。
チャンネル構成は、フロント2ch、センター、リア2chの計5チャンネルに、低音専用のサブウーファーを加えたもので、サブウーファーは.1と表された。

スピーカーを6つも並べるのは、日本の家屋事情からするとかなり難しい事のように思われるが、それでも当時はホームシアターブームが起きていた。
私もホームシアター関連の専門誌「HiVi」を毎月欠かさず読み、専門ショップで週末開催されるイベントを訪れては、機器の試聴試写を愉しんでいた。
(雑誌HiViは今でもある)

ホームシアターの環境が映画館を超えられると言われたのはこの時代だった。
絶対的な画面の大きさや空間の容積では映画館にかないようもないが、画質と音質と、それに伴って展開される濃密な映画体験は、これまでに無い経験をもたらした。

Blu-rayの時代

HD-DVDと争った末に高精細化仕様のスタンダードとなったBlu-ray Disc。
ハイビジョンを収録・再生出来るようになって地デジの普及とともに映像メディアの主力となった。
もっとも、家庭ではハードディスク・レコーダーの普及により、Blu-rayは映像レンタル用途がメインになっていった。
音声コーデックについては、7.1チャンネルの収録が可能となった。
7.1チャンネルとは、5.1チャンネルにサラウンド・バックの2chを加えたものだ。つまり、スピーカーがさらに2つ増えることになる。

Blu-ray Disc自体も進化して、Ultra HD Blu-rayの登場によって、画像は4K対応となり、音声はDolby Atmos対応となった。

サウンドオブジェクトをリアルタイム・レンダリングして最大64chのスピーカーから出力出来るという映画館用の Dolby Atmos for Theater が2012年に登場し、仕様上は9.1.6chまで対応可能な Dolby Atmos for Home が家庭用バージョンとして作られた。

この進化に伴って、現在のAVアンプのフラグシップモデルでは、5チャンネルどころか、13チャンネル分のパワーアンプを積んでいるものもある。

Dolby Atmosになったことによる以前との違いは、天井にも複数のスピーカーを配置するようになったことだ。
天井に複数のスピーカーを設置することこそ住宅では難しいと思われがちだが、どうにかしてやりたくなってしまうものだ。
静かなDYIブームの再来もあって、賃貸住宅であっても天井にスピーカーを設置する人はいる。

また、最近では2chのサブウーファー出力端子を持つAVアンプもあって、重低音スピーカーもひとつでは足りないと思わせる時代になって来たようだ。

配信の時代

Amazon Video や Netflix など、映像配信がメインストリームになりつつある現在では、これらの配信でも4K対応、Dolby Atmos 対応が少しずつ進んでいる。

配信中心での映像体験では、ハードディスクも含め記憶媒体が不要となる。思えばCDだって何年も買っていないのだから、この配信への流れは当たり前だろう。
ビデオ・オン・デマンドの時代は昔私が思っていたよりも早く来た。来たかと思ったらあっという間に浸透していた。

それでも、本当の高画質・高音質に拘るのであればまだBlu-rayに分があって、マニアが配信だけで十分と思えるようになるには、今しばらく掛かりそうだ。

サラウンドの未来

映像の解像度は4Kの先に8Kが控えている。
サラウンドについてはどうだろうか。

最近ソニーが販売したバーチャルスピーカーを利用するシステムが気になる。

4つのワイヤレス・スピーカーを配置するだけで、最大12個のファントムスピーカーを生成して立体音像空間を作り出すという。
購入者のレビューを読むと、音に包まれる凄さはあるが、実スピーカーを配置した場合に比べれば劣るということのようだ。
それは、スピーカーを4つしか使用していない場合だろう。
もっと多くのスピーカーを対象にバーチャルスピーカーを使えるようになれば、掌サイズの小さなスピーカー10個くらいを、あちこちに適当に置くだけで、もっと濃密な音場が作れるのではないだろうか。

音場を作るためのリアルタイムデータ処理がより高精度に早く出来るようになることで、家庭の空間に濃密な全方位音場を簡単に作り出すことが出来るようになるのではないか。

おわりに

自分の周りを水平方向に囲むように音が広がるというところから出発した家庭用サラウンドは、自分の周りの空間全てを、まるで別の空間にいるかのように変えてしまうというような音場システムになった。
思い返すと、YAMAHAは当初から、単なるサラウンドではなく音場を再現することに着目しており、他のAVアンプメーカーとはベースとなるコンセプトが違っていた。YAMAHAが最初のDSP構想を掲げて製品化した時、休みと言えば映画館通いをしている高校生だった私は、音場に包まれて自宅で映画を見ることを夢見ていた。


今では誰しも機器を用意さえすれば、家庭で映画館と同じような音質で音に包まれながら映画体験を味わうことが出来るようになった。

映像体験が映画からテレビ、テレビからスマホと、より小さな画面でのパーソナルなものに変遷して来てはいるが、家庭で大きな画面かつ良いサラウンド環境で楽しむための金銭的ハードルは、以前に比べて格段に下がっている。

より充実した映画体験のための選択肢のひとつして、再びホームシアターを考えてみるのも良いのではないか。

おわり

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