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人類の未来のために

 人間は、その頭脳による思考力によって他の生物とは違った存在になり得ている。脳の発達が導いた発展は地球を覆うまでになった。

 しかし、知性や理性や思考は様々なもので乱される。

 まず、暑さで乱される。
 こんなにも暑いとぼーっとするのが精一杯で、考えることが出来なくなる。いくらエアコンをつけて寝たとしても、朝に家から一歩出れば危険なほどの暑さが襲ってきて、考えるどころでは無くなる。
 冷房の効いた屋内に逃げ込めば暑さは無くなるが、寒暖の過度な変動は身体の変調をきたす。

 身体が不調になると思考は乱される。
 だるくて辛い時に万全の状態で考えることは出来ない。身体のどこかに痛みがあれば、注意力は痛みのある場所に集中してしまい、他のことは考えられなくなる。
 痛み止めを飲むという手はあるが、何度も使う訳にはいかない。

 腹が減っても理性は乱される。
 ここは人によるのかも知れないが、少なくとも私は空腹では何も出来なくなる。それどころかイライラしてくる。考えるどころではないし、攻撃的にすらなる。攻撃的になるのは狩猟本能だから許してというつもりは毛頭ないが、自分の理性ではどうにもならないことも確かだ。

 眠くなっても知性は働かない。
 どうしようもない睡魔に襲われると、眠ってはいけないと思っているそばから眠ってしまうことすらある。絶対に眠ってはいけない状況下でも睡魔には勝てないのが人間だ。眠くなる前に運転を一旦やめる方がいい。

 痒いのもたまらない。
 掻けば掻くほど痒くなるあの現象は一体何の役に立つのか分からないが、痒い状態で冷静な判断など出来るはずもない。キンカンを塗ってもムヒを塗っても全く効果が無いのは私だけだろうか。だから夏で1番嫌なのは何をおいても蚊がいることだ。

 もちろん、寒くてもダメだ。
 手がかじかみ、足先に感覚が無くなるような状態では、的確な判断などしようもない。哲学的な問題を考えるなんてことよりも、どうやって手足を温めるかで頭の中は占められてしまう。

 ちょっと待て。
 何を言っているのだ。

 便利で快適な世の中になったからこそこんな堕落したことを言っているが、人類が発展してきた環境は決して快適ではなかったはずだ。暑くて寒くて、ひもじくて腹が減って、満足な睡眠を取れるほど安全ではなくて、痒みをもたらす植物や昆虫は沢山いて、体を壊しても医者もいなけりゃ薬も無かったのだ。
 古代の哲学者は今よりもずっと過酷な環境の中で本質的で抽象的な思考を巡らせ考え続けていたのだろう。
 様々な要因のせいで思考が停止するとか、理性が働かないなどと言うのは、現代人特有の甘えでしか無いと言われてもおかしくない。

 いやはや、昔はこんなには暑くなかったはずだと思いたいが、人類の起源がアフリカ大陸だったとすれば暑くないはずもないか。
 熱中症は怖いけれど、それに怯えて快適過ぎる環境に身を置くのは、人類の未来を考えると良くないことなのだろうか。
 だとすれば、暑いくらいで考えられないとか働く気がしないと少しでも思った私は、子孫に顔向けできないということになりそうだ。

おわり

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