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お隣さん

 通勤電車の中で隣の席の人がうつらうつらしている。船を漕ぎ始めたその人は、次第に寄り掛かるように倒れてくる。良くある光景だ。そんな時、あなたならどうするだろうか。

 寄り掛かってくるタイミングを見計らって避けるように身を躱したり、逆に相手方向に強く押し込んでみたり。あるいはじっと耐えて支え続けるか。多くの人は、誰にでもあることだから寄り掛からせてあげようというよりも、迷惑だな、何とかして起きてくれないか、早く降りてくれないかと思うことだろう。

 では、その居眠りして寄り掛かってくる隣の席の人が自分の恋人や子供だったらどうだろうか。同じ会社の同僚や上司だったら。あるいは、それほど顔見知りではないが同じ町内会の人だったら。
 きっとあなたの気持ちや対応は、相手との普段の距離感によって違ったものになるだろう。相手との距離感とはつまり、利害関係のことだ。自分に対して何らかの利がある人ほど距離が近く感じる。距離が近い人ほど日常的に利も害もあり得る。距離の近さは関わる機会の多さに等しいと言えるだろう。

 近しい人なら居眠りして寄り掛かって来ても嬉しかったり我慢したりするのに、知らない人だとムカつくのは、それが赤の他人だからだ。たまたま電車に乗り合わせただけの人に肩を貸すいわれは無いと思うのだろう。
 他方で、嫌だとは思いながらも自分もこういうことあるよなと肩を貸す人は、たまたま乗り合わせたとはいえ、同じ人間だよなという視点を持っていると言えるだろう。

 誰にでも神対応する必要はないけれど、誰とでもギスギスする必要も無い。この世に無関係な人などいないのだし、もしそう思えないとしたら自己中心的に偏りつつあることを自覚する機会かも知れない。ともかく後者の人が増えているとしたら残念だ。

 近所迷惑と思うか思わないか、迷惑と思った時に互いに敬意を持って指摘できるか。取り立ててお隣さんと仲良くする必要があるかどうかは別として、何かと管理会社や警察にご連絡するような世の中では、気が休まらないではないか。
 だったらせめてお隣さんとくらいは気持ちよく接することを心掛けたいものだと思ったりしている。

おわり
 

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