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日本でVRが普及しない理由

 世の中の話題はAIに持ちきりで、少し前にメタバースというワードがあったことを忘れてしまっている人が殆だろう。
 たとえVチューバーは流行っても、ゴーグルを装着して異世界に入り込むVRは、もはや絶滅危惧種だ。既にブームが終わってしまった感があるが、どうしてこうなったのだろうか。

 現在のVRの個人分野での活用は、実用よりもゲームの領域が主流だ。フィットネス等はやや実用よりのアプリケーションとはいえ、仮想空間内のオブジェクトをパンチするといったようにゲーム性に寄せて作られているものが多い。
 VRの特徴は専用のゴーグルをつけることで現実世界とは違った視覚情報を与え、別世界に入り込んだかのような錯覚を与えることだ。身体は現実世界にありながら、言ってみれば脳を騙すことがベースにある。このせいで、異世界の超感覚の素晴らしさとは別に、拭いきれない現実世界とのズレが原因でVR酔が起きたり、振り回した腕が現実世界にある壁にぶつかったりする。
 つまり、没頭出来るVR世界を体験するためには、視覚と感覚のズレを極限まで少なくしたハイスペックなデバイスと、広い物理空間が必要になる。
 デバイスは進化したものの、スタンドアロン機ではまだラグが目立つ。ハードウェアの処理ズレのみならず、ソフトウェアの工夫も発展途上だ。
 一方の広い物理空間とは、すなわち部屋の広さそのものであり、六畳間では狭すぎるし家具があるなら12畳あっても十分とは言えない(もちろん必要となる空間スペックは使うアプリによる)。
 要求される部屋の広さという点では、日本の特に都市部では不利なことは自明だろう。これが日本でVRが普及しない理由だ。

 と言いたいところだが、原因はそれだけではない。
 これはVRに限ったことではなくイノベーション全般に言えることで、むしろ原因は社会体質にある。ひいては企業体質でもある。
 どういうことかというと、ひとつには、新しい何かを生み出すことにエネルギーを投じることよりも、既存の何かを消費する性向がある。
 そしてもうひとつには、新しい技術や仕組についての成功事例を後追いして高めることに長けている一方で、成功事例を見つけることに割くリソースを無駄と考える。
 実はこれらの根は同じところにある。片や消費者目線であり、片や企業目線で言っているに過ぎない。

 大学での基礎研究に予算が付かないことにも繋がるし、スパコンは2位で良いという理屈にも似ている。
 企業で研究開発の予算申請したところで、あるいは投資を募ったところで、次のように言われるのがオチだ。
 「VR? そんなのおもちゃだろ? 誰かそれで儲かった事例でもあるの? 無いでしょ。ダメダメ」

 誰も上手く行っていない領域にこそチャンスが眠っている可能性がある。しかしそれを掘り起こすのは、日本ではまだまだハードルが高い。

おわり


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