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お客様は神様ではありえない

 お客様が神様だという考え方があっさりと受け入れられたのは、日本では無宗教が主流だからではないか。

 お客様が神様だとすれば、神様は人間という事になってしまって、人智を超えた存在という神様の定義に反する。
 そもそも人に向かって神様と言うなんて、たとえ比喩と分かっていても、信仰心が高い人にとってみれば違和感しかないだろう。神様と思えと言われても到底出来ないはずだ。

 恐らく、この上なく大切なものとして扱いなさいという意味で言いたかったのだろう。客の言うことが正しいという前提で考えなさいという意味だったのだろう。
 この考え方は間違っていないと思う。
 しかし、客の言うことは無条件で受け入れなさいということだとすれば、違うと思う。客の方が立場が上だなんてことも無い。

 神という概念に際限がないために、客は神様という言葉は必要以上に拡大解釈されてしまった。その結果、金を払っているのはどっちだと店員に対して居丈高に振る舞い、過剰なサービス要求をするのが当たり前だと錯覚した人が増産されてしまった。

 サービス、つまり提供されるものと対価は比例するのであって、金され払えば言いたい放題なんてことは無い。
 席につくや無愛想にしかも必要以上に大きな声で「コーヒー、熱々のね。あんた分かる? 熱いやつ」などと言う権利は客には無い。
 そんな人にはすぐさま言い方を教えた方がいい。
「コーヒーを下さい。出来れば熱めにしていただけますか。出来なければ結構ですが。無理言って済みません」とでも。あるいは「お前に飲ませる熱々コーヒーなんてないから出ていけよ」と言い放つのも良い。

 サービスという言葉を、おまけや無料と言う意味で使ったりするものだから誤解を生みやすいのだろう。サービスとは、支払われる対価に見合った何かを提供することであり、多くを要求するのであればまず追加料金を払うべきだ。そんなのどこに書いてあると言い出すだろうが、そもそも、お客様の言いなりに何でもしますとも書いていない。高いサービスを要求するのであれば、それに見合った料金を払えというものだ。そういう高級店にでも行けばいい。入れて貰えないかも知れないが。

 店員を見下したり、何かとクレームをつける人が増えたのは、繋がりが無いからだろう。人々の間にリスペクトが無いからだろう。
 赤の他人であることには違い無いが、何も最初からいがみ合うことは無い。たとえむしゃくしゃしたことがあっても、それを他人にぶつけて良いわけもない。
 私は特定の宗教に関わってはいないので正確には分からないが、神様はきっと人間を見下したり、こけにしたりはしないだろう。全知全能の神様にとっとは人間など取るに足りない、何にも出来ないに等しいゴマ粒のような存在だろうが、それでもひとりひとりを尊重して、大切に扱ってくれるものだろう。
 百歩譲って、お客様は神様だと言うのはいい。
 だったら、本当の神様のように慈悲を持って振る舞って欲しい物だ。

おわり

(ちなみに、私はどこぞの店員ではないし、最近何かクレームを言われたわけでもない。ただ前からあった違和感を書き残したかっただけだ)

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