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極北に住むと。。。

世界のどこにもパラダイスなどないに違いない。結局何を選んで、何を捨てるか。その選択が、人生の方向を決めていくのかもしれない。

海外に住んでいると、特に極北の辺鄙な場所にいると、日本では考えられないようなことがよく起きる。

現在カナダもまだコロナ渦で、移動制限があるまっただ中だ。ここ北の果てのユーコン準州でも、未だに州境が閉ざされている。州外に出て戻ってくるだけで、2週間の強制隔離を行わなければならない。

州境が閉鎖されていることもあり、この冬はずっとユーコン州都のホワイトホース近郊で過ごすことが多かった。そこで気分転換に、ちょっとした小旅行を計画した。行き先はユーコンの古都、ドーソンシティー。ホワイトホースから北に約500km離れた、ゴールドラッシュで栄えた小さな街だ。

<極北ユーコンの古都・ドーソンシティーの古い建物>

カナダの極北ユーコン準州は、人口が日本の1.3倍の大きさもあるが、人口はたった4万前後しかない。野生動物の方が多い場所で、人が住む集落の数も極端に少ない。ホワイトホースからドーソンシティーまでは、道路が1本しか通っておらず、道中は先住民の街が2つあるだけで、あとはひたすら大自然が広がるのみ。

順調に運転しながら、数時間走った頃だった。車が激しく揺れ始め、金属が地面を擦る音が聞こえきた。慌てて停車し、車の下を覗いてみた。車体の真ん中の大きな棒が外れている。ドライブシャフトだ。。。

今までいろんな車を乗ってきたが、ドライブシャフトが外れたのは今回が初めてであった。しかも出発前日までに大きな修理を行い、3000カナダドル(日本円約25万円ほど)もかけたところだ。さあ旅行に行こうとなった途端にこれである。

<外れてしまったドライブシャフト>

ただ壊れた車自体も走行距離は35万キロ。2006年製のアメリカGMC車のトラックであるが、中古で購入した時はすでに16万キロの走行距離であった。それにしても、アメリカ製の車はよく壊れるものだ。

ユーコンのほとんどは携帯電波の圏外で、基本的には集落の周辺しか携帯は使えない。今回故障した場所も、人口25人の集落から1時間ほど離れた場所であった。本来なら電波の通じないところであるはずが、今回は電波1本だけ立っている。

カナダのJAFのような会社に電話をして、レッカー車を頼むことにした。何度か電話でやりとりをするが、中々レッカー業者に繋がらない。間違った電話番号をもらったり、時間外で営業していなかったりと、すんなり手配とはいかなかった。

そしてようやく繋がったのが、唯一ドーソンで時間外に営業をする一人の男だった。午後7時電話した時にには既に寝ていたが、電話が鳴ったので起きたという。レッカー車を出してくれるというので、向かう間の2時間ほどは待っていろとのことだった。

<↑今回の故障事件とドーソンの街並みのVlog動画>

いつ車が故障してもいいように、普段から緊急事態セットを車に積んでいる。斧やマッチ、シャベルにロープなど、基本的な道具は全て積んでいるのだが、ドライブシャフトが落ちてしまうとどうしようもない。時折通り過ぎる車の全ては立ち止まってくれ、皆同じような質問をしていった。「大丈夫か?乗っていくか?水と食糧はあるか?」便利なものがない過酷な大地では、困った時には手を差し伸べてくれるのだ。

レッカー車を待つ間は犬の散歩をしたり、パソコンでの仕事をするなどをして、レッカー車の到着を待った。真っ暗になったところ、ようやく到着した。車をレッカー車に乗せた後、1つしかない助手席に、妻と僕とで一緒に座った。窮屈なので、当然シートベルトも閉めれない。ここから2時間、シートベルトなしの旅である。

レッカー車の運転者は気のいい人で、おしゃべりが大好きな60代の男だった。元々は南のブリティッシュ・コロンビア州出身で、人生のほとんどを木材伐採に費やして来たらしい。今日も早朝から木を切っていた為、早い時間から寝ていたのだ。

話は面白いのだが、同時に極度のチェーンスモーカーで、ひっきりなしにタバコを吸う。窓は開けてくれるのだが、こちらの喉は当然むせる。窮屈な座席に座っていると、余計苦しくなる。早朝からの疲れがあったので、会話は妻に任せて僕は仮眠をとった。

<ドーソンに到着したレッカー車>

ドーソンに到着したのは夜中過ぎ。そのままホテルに直行した。週末は街の修理工が休みのため、車の修理は月曜の朝まで待たなければいけない。待ったとしても、すぐにパーツがあるとも限らず、そもそも予約なしで修理をしてくれるかどうかもわからない。

海外の僻地に住んでいると、日本の都会の便利さが懐かしくなる。どこにでも、なんでもあるコンビニ、なんでも揃っている都会、必ず届き、時間指定までできる宅配システム。どれもこれも、ここにはないものばかりである。

<極北ユーコンの夜空を舞うオーロラ>

なぜこんな極北の辺鄙な場所で、不便な暮らしをしているのか。時折自問することがあるが、いつも返ってくる答えは同じである。超がつく大自然。癖はあるユニークな人たちが住むことができる社会の許容力。ユーコンもそれなりに問題は抱えているが、この二つの要素が僕と妻をここに留める最大の理由だろう。

結局車は月曜に仮修理のみが終わり、最速時速80キロのトロトロ運転でホワイトホースへと戻ってきた。これ以上スピードを出すと、再び壊れる可能性があると言われたためだ。

故障から2週間たった今でも、車は完全には修理されていない。信頼する腕の良いメカニックは忙しく、予約をしても2週間後にしか空いていないのだ。出発前に修理をしてもらった、カナダでは有名なチェーン店の会社も、今回のことを伝えてもどこふく風だ。返金や謝罪などある様子も全くない。こちらも、実にカナダらしい、いや極北ユーコンらしい対応だと思う。

世界のどこにもパラダイスなどないに違いない。結局何を選んで、何を捨てるか。その選択が、人生の方向を決めていくのかもしれない。

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