⑤ 論理的思考力の根幹となる論証能力

学校教育においても、社会人の教育においても、国際化・情報化社会に対応していくために、私が今まで述べてきたように論理的思考力の育成が重要であると提言されています。しかし、その論理的思考力という言葉については、その定義が「前提条件に基づいて推理を行い、一定の帰結をえるような思考のことを論理的な思考という」(『国語教育研究大辞典』明治図書による)とあるように抽象的な概念であり、どのように「自分の考えや感情」を分析し、その要素を再構成していけばよいのかについては具体的に示されていないのです。
香西秀信氏は「『論理的思考力=筋道を立てて物事を考える力』といった類の無意味な同義反復か、国語科で扱うべき全学力を含んでしまうような長大な項目の羅列であるのが大抵であり、およそものの役に立たない」(「論理的思考力の問題」『ニューサポート』による)と指摘しています。
これから、国際化・情報化などの社会の変容に対応していくための能力は論理的思考力であるということの共通認識のもと、さらにこの能力の根本となる「自分の考えや感情をできるだけ正確に言葉で表現できるような能力」を育成していくために最も大きく関わっているものは何かということを細分化して考えていく必要があるのです。
論理的思考力について、前出の香西氏は「私自身は、論理的思考力を論証能力に限定して用いている。論理的思考力と総称される諸能力の中で、それが欠けていればもはや論理的思考力があるとはみなされないものの随一が論証能力であると考えるからだ」と論証能力の重要性を示しています。
④において、論理的思考というものを「『自分の考えや感情』を構成する要素を筋道立てて組み立てていくこと」と定義しましたが、以降では、その根本となるものは論証能力であると考えていきます。つまり、「考えや感情」の要素とは論証を組み立てる要素であり、その構造は論証の構造そのものであると考えていくこととします。

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