R1.11.8 秋に聴きたいジャズ3選

11月に入ってすっかり秋めいてきたどころか、私の住む地方では冬の気配すらしてきたこの頃であります。昨日は謎の頭痛に襲われ、一日中臥せっておりましたが何とか快復したみたい。

さて前回の記事で「読書の秋というけれど、読書に季節は関係ない」というようなことを書いたのだが、「いや、この一冊はこの季節に読まないければ読んだ気にならぬのだ」との意見まことに全うであり、前言撤回いたします。たしかに、夏にカフカを読む気にはなれないし(なんとなく)、冬にフォークナーを読む気にもなれない(なんとなくだが)。

では、音楽はどうか。これは「関係ある」といわねばなるまい。名盤はいつ聴いても名盤だが、聴きたい気分になるかどうかというところがある。というわけでこの季節におすすめのジャズアルバムを選んでみた。

<秋に聴きたいジャズ3選>

・Dexter Gordon『One Flight Up』

まず聴いていただきたいのは一曲目の「Tanya」。18分に及ぶ大曲だが、これがとにかくカッコいいのだ。朗々と奏でられるデックスのテナーの音色が心地よいのはもちろんだが、聴き所は他にもある。決め所でバシッバシッと豪快に決めていくドラムは誰かと思えば、なんと、アート・テイラーではないか。レッド・ガーランドのトリオにおけるプレイを念頭に置いているとちょっと驚いてしまうようなドラミングである。重厚なベースの音といい、執拗に繰り返されるピアノのパターンといい、どの楽器に耳を澄ましても、どっぷりと浸れる名演なのです。三曲目の「Darn That Dream」も秋にぴったりの雰囲気。


・Miles Davis『Workin'』

世間一般では「ING四部作」といえば『Relaxin'』や『Cookin'』の評価が高いようであるが、私がおすすめしたいのはこれ。このアルバムには個人的な思い入れもあって、なにを隠そう私がはじめて聴いたジャズのアルバムの一枚なのです。当時、なんの気の迷いかジャズでも聴いてみようと思い、TSUTAYAへ向かったものの、知識など全くない状態で何を選べばいいのかわからぬままに手にとったのがこの一枚だった。およそジャズっぽくないジャケットをどうして選んだのかは自分でも謎だが、「帝王マイルス」の名前くらいは聞きかじっていたのだろう。そんなわけで、私をジャズ沼に引き込んでしまったのも『Workin'』なのです。

とくにおすすめしたいのは、LPで言うところのA面(CDだと前半部分)。マイルスの研ぎ澄まされたようなトランペットとガーランドのキラキラしたピアノが忘我の境地へと誘う「It Never Entered My MInd」。そして、三曲目はいまや私が好きなスタンダード1、2位を争う曲となった「In Your Own Sweet Way」。テーマのメロディーの可愛らしさも好きだし、コルトレーンの出てくる瞬間の「きたきたー」っていう感じ(伝わるかな?)も好き。それらを支えるリズムセクションが優れていることは言うまでもない。なお、ジャズ喫茶でリクエストする際には『Walkin'』と間違えられてしまうかもしれないので注意が必要。


・Art Pepper『Modern Art』

最後は言わずと知れた名盤『Modern Art』。最初に断っておくと、上記のプレイリストではLP未収録曲が追加され、曲順も入れ替わってしまっているが、このアルバムに関してはオリジナルの曲順(「Blues In」からはじまり「Blues Out」で終わる)で聴いていただきたい。なぜかといえば、それによってこのアルバムのストーリー性、そしてアート・ペッパーの表現の本質がつかめると思うからだ。

ベースとアルトサックスのデゥオから厳かにはじまり、やがて曲調は早いものへと移行していくが、決して一種の“涼しさ”は失われず、静かに燃える炎といった風情(そこにはラス・フリーマンの明瞭なピアノの音が一役買っていることにも注目したい)。そして再び、熱を冷ましていくかのようなベースとのデゥオで幕を閉じる。「『Modern Art』っていつの季語だっけ?」という質問があったなら(あるわけないが)、きっと「秋」と答えてしまうようなそんなアルバムです。


以上、私が愛聴しているアルバムの中から秋にぴったりと思われるものを選んでみた。お気に入りの一枚に加えてもらえたならば、何よりです。

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