【創作】快活明朗アンダーザスカイ

くっそ。なんで俺が追われなきゃいけねえんだ!


追ってくるあいつは足が速い。
障害物を使わないとすぐに追いつかれる。
飛び越え、くぐり、物陰に隠れる。
仲間も追われている状況で、敵は3人と見る。
見分けるカギは、帽子の色か。
俺たちのものとは違う。
それはつまり、向こうもそれを手掛かりにしているということだろう。
ごまかす術を利用したいが、このルールは守らなけりゃ真の男じゃねえ。


翔太郎! と、背後から声が聞こえた。
逃げ延びた仲間たちが俺の名を呼び、手招きする。
無事で良かったと互いに声を掛け合い、誰が捕まっただとか、情報交換を始める。
ここまで来たら、ここにいる全員で逃げ切るしかねえ。
合流できたことに安堵しつつ、敵の動向へ意識を向ける。

「逃げろ!」

遠くで赤帽に捉えられたのを感じ取った。
俺の決死の声で、みんなが放射状に駆けていく。
数秒遅れて俺も走り出す。
俺がおとりだ。
真正面から勝負してやる。
とにかく真っ直ぐ駆け抜ける。
敵が迫ってくる。
手を伸ばして届く距離まで、3m、2m、1m、…。

キーンコーンカーンコーン。

―よっしゃー! 逃げ切ったー! お前早えーよ!
グラウンドのあちこちで、声を上げながら、駆け足で校舎へ向かう少年少女たち。
すんでのところで逃げ切った少年も、白い面を表にした帽子を団扇にしながら、続きは昼休みなー! なんて言って、友人たちと笑い合っている。

彼の唯一の心残りは、ジャングルジムの牢屋に囚われた愛しのあの子を救えなかったことであり、彼が本当に逃れたかったのは、3時間目の書写の授業で使う習字セットを自宅に忘れたために先生から雷を落とされることであった。
当の本人は走りながら、それすらも忘れていたのだが。

ジャンケンに負けてどろぼうになり、アリバイ工作にも失敗した、残念(さには気づいていない快活明朗)な少年のとある日の中休みである。


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