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B2B SaaSプロダクトの潜在顧客の現場を見に行く

台風が日本列島を騒がせる中、8月が終わろうとしています。皆さまご無事でしょうか。今回は、アプリ開発企業の開発チームの現場を見に行く、という試みを始めた話を書きます。

現場での課題理解の重要性

先月、自分で作ったプロトタイプを実際に業務で使ってみたらとても課題理解が進んだという体験の話を書きました。この体験で、自分の目で見たり体験したりすることなしには、本当の意味で課題の本質に迫ることは困難だと改めて感じました。ということで、今月は実際に「世のアプリ開発チームの現場」に行くことを試み始めました。

プロダクトを作る上で、そのプロダクトが使われる現場を責任者が自ら見て理解することは極めて重要だということはあらゆる文献で言及されています。HCDでエスノグラフィー調査をやる場合も、プロダクトを一番知っている人が直接現場を見る時に得られる情報量は、調査の専門家のそれを遙かに上回ります。「ユーザー理解が足りてればプロダクトの意志決定で迷うことはない」という話さえあります。プロダクト責任者が現場を見ることは、プロダクトの質もデリバリーの速さも向上させることに繋がる。見ない理由はありません。

そうとは分かっていても、現実に目を向けると、顧客の現場を十分に見ることができているプロダクト責任者はそこまで多くないように感じます。プロダクトマネージャーカンファレンスのセッションでも、PMが現場を見てとてもよかったという体験談についてよく語られている印象がありますが、裏を返せばそれはつまり現状において「PMが現場を十分に知っている」が一般的ではないということであるともいえます。(余談ですが体験談の一例として、昨年のセッションでログラス社のVPoPの方が、事業ドメインの圧倒的理解を得るために「丁稚奉公」したという体験談が共有されていて、とても参考になります)

最初のハードル

必要なのに全員が全員やっていない、ということは、おそらく難しいことなのだということはなんとなく想像しつつ、「顧客の現場に行く」に実際にチャレンジしてみました。

まずはどこに行くか。我々がやっているのはアプリ開発組織向けのB2BのSaaSなので顧客は個人ではなく企業です。また今後のプロダクトの未来を描くという目的なので、既存顧客はもとより、対象セグメントのポテンシャルカスタマーの現場も知る必要があります。

とはいえ完全にアウェー戦に行くよりは、最初は近い関係の知人を当たって感触を掴んでいくことから始めます。そのアポを取るところで、まず最初の躓きがあります。よく知っている人がいる会社であっても、内情はまったく分からないので、どう依頼をすれば受け入れてもらえるか分かりません。

現在顧客でもない企業に、ただ現場を見せてほしいといって、忙しい中であれこれ調整に動いてもらうことなんてできるんだろうか?まずもって、自分が反対の立場で「現場を見させてください」って話を受けた体験がほとんどありません。実際に行われているケースはとても少なそうです。

試み: 企画書を作ってみる

どうやったら、このメリットもよく分からない提案を相手に受け入れてもらえるか?このハードルを乗り越えるため、まず最初にNotionに簡単な企画書のようなものをまとめました。

CPOに、CEO貸出キャンペーン、よくない?って言われたのでそのままタイトルに採用した

その後、この企画書を何人かの知り合いに「御社いける?紹介できそうな会社ある?」と投げて相談してみました。反応の返ってきた一人はCTOで、もう一人はプロダクトマネージャです。思ったよりも反応はよく、プロダクトマネージャーの方からは「社内エンジニアにヒアリングして、みんなすごい沸いてました」という話もいただけて、あれ、意外と行けるかも?という感覚になりました。

走り始めた

そこから1週間ほど間が空いて、どちらの会社も「まずは一度話をしてほしい」という形で機会がいただけました。CTOからは部門長、プロダクトマネージャーの方からは技術統括・EMの方に辿り着いた形です。

今日の時点ではまず1社、前者の部門長と顔合わせのZoomを30分だけ行わせていただきました。30分だけですが、現時点でも抱えている課題の解像度が大きく上がり、今後に続く話ができたので、これから何ができるだろうかと既にワクワクしています。

一方で、現在の製品とは関係ないスコープまで探索的に見ていくことになるため、フォーカスを見失わないように気をつける必要があるという感触も掴めました。今回伺った課題は、現在の我々の提供する製品のスコープからは大きく外れていると感じられる課題です。しかし、課題を持つ人の言語に合わせたソリューションの提示をすることで、その課題の解決の一端を担うポジションを得られる可能性はあります。元々、話が広がるのは織り込み済みではありつつ、当初の目的に立ち返るということも常に意識していきたいところです。

もっと手軽にできないものか

並行して、ここまでの話を振り返りつつ手法のアップデートを試みています。現状、お話を伺うところまでいけている成果はありつつ、最初に話せるまで1週間はかかり、またやりたいことに対してどうも話が大きくなってしまうな、とも感じています。

この感覚は、以前短期間ながらサンフランシスコにいたときの体験が比較対象にあります。コロナ禍以前の体験ですが、直接の取引関係にない会社に訪問する機会はあちらこちらで存在しました。スタートアップはもちろん上場している会社であっても、知りあった人にたった1行、

Hi, I’d like to learn more about your company. Can I come and help?

なんてメッセージなりメールなりを送れば、受ける側としてもよくある話なので、もちろん忙しくなければという条件はありつつ、多くは気軽にオフィスを訪問して話が聞けて、たまたま通りかかった人を紹介してもらうなんてこともありました。

最初、同じことを日本語でやろうとしたのですが、この1行に相当する文を手短に書くことができず、結果として上に出たような企画書に着地しました。言葉というよりは文化の違いに起因していると感じていますが、この初手の重さの違いが日本におけるB2B SaaSで優れたユーザー体験を作ることの大きな機会損失になっているかもしれません。

一方で実際やってみて、最初から企画書を投げると、それはそれで先方が話を受けるためのハードルを上げるようなミスディレクションも発生していそうだと分かりました。現在は、1行とはいかないもののとにかく手短なメッセージだけにして、まずは話聞ける?と投げる形に変える試みをしています。

そんな感じで、手探りながら、引き続き試行錯誤していきたいと思います。現場からは以上です。

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