見出し画像

この2~3年で癌は急速に進行しやすくなったのか?

 少なくとも10年以上癌の診療に専門医として携わってきて、100人/月の患者さんを診療し、そのうち95%は最期まで見届けた立場から。
 この2~3年で癌が急速に進行しやすくなったなんてことは、少なくとも僕の周囲では起きていなくて、むしろ治療の急速な進歩によって癌はびっくりするくらい進行しなくなった。あくまでも10年前と比べれば、だが。

「急速に癌が進行したように見える」なんていうのは、別にこの数年に関わらず、10年前からあった。
 当時は「若い人ほど癌は進行するのが早い」なんて言葉でとらえられてたけど。実際には若くても高齢でも、人によって進行のスピードは全然違う。癌の種類によっても違う。年齢は関係ない。

 若者と高齢者で癌になったときの違いは「元々どれくらい体力があったか」。若ければ体力はあるし、高齢であれば体力はそもそも衰えている。だから、若者は癌が進行してもギリギリまで頑張れるから気づきにくいし、高齢者はその逆。結果的に、癌と診断されてからあっという間に進行したように見えるのは若者が多くなる。

 終末期の患者さんを診るときに、若くて体力がある方の場合「スイッチが切れたように」急速な悪化から死に至るパターンはよくある。死の直前まで食事を食べ、自力で歩いていた、なんてことも珍しくない。
 癌がある程度進行しても、予備能力が高いから表面上はカバーできるのだろう。その分、どこか臨界点を超えたときに急に変化したように見えるのだ。
 ただ、それは医者でもびっくりするのだから、本人・家族はもっとびっくりする。
 だから、僕は若い患者さんほどよく観察しないとダメだと思っている。ちょっとした肌色の変化、会話の違和感、部屋に漂う匂いまで。「元気そうだからまだ大丈夫」っていう油断で、これまで何度ご家族を落胆させたか。
 最近は逆に、早いうちから厳しい話をし過ぎかもしれないけど。

「予想外の進行!」=進行しやすい、まれな病態かも?

 同じような画像所見でも、病態によって進行度は全然異なる。例えば肺に転移した癌があったとして。
 それが、

・転移性肺腫瘍なら月単位で進む。

・癌性リンパ管症なら週単位で進む。

・PTTM(=肺腫瘍血栓性微小血管症)なら日単位で進むことも珍しくない。

 PTTMは特殊な病態ではあるけど、約3%で生じるとされているからそれほどまれということもない。抗がん剤治療を除けば有効な治療にも乏しく、「診断されてから急速に悪化する」ことが多い。

 転移性肺腫瘍とPTTMを見間違うことは少ないけど、癌性リンパ管症とは見間違うかもしれない。経験が少なく、この病態が頭に入っていなければ「予想以上に急速に進行してしまった、おかしい!」と考える医師がいても不思議ではない。僕でも、年に2~3例診ればよいレベルだから。

 もう一度言うが、上記のような状況は10年前からずっと変わっておらず、この2~3年で急速に癌が進行しやすくなった、なんて事実は少なくとも僕の周囲には存在しない。むしろ、進行が遅くなった方が多くなり外来診療は年々平和になっていると感じている。

ここから先は

424字 / 1画像
このマガジンでは月に2~4本程度の記事を毎月ご提供します。月に2本以上購読されるようでしたら、マガジンを購読された方がお得です。

「コトバとコミュニティの実験場」 僕はこのマガジンで、「コトバ」と「コミュニティ」の2つをテーマにいろいろな記事を提供していく。その2つを…

スキやフォローをしてくれた方には、僕の好きなおスシで返します。 漢字のネタが出たらアタリです。きっといいことあります。 また、いただいたサポートは全て暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営資金となります。 よろしくお願いします。