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医者が、PRの専門家に会いに行く:誰も傷つけないけどたくさんの人に医療情報を届ける方法ってあるの?(1/5)

 皆さんは覚えているだろうか。
 2019年11月、「人生会議」を啓発しようとした厚生労働省のポスターが「炎上」したことを。

 この炎上問題が起きたときから僕は「医療における広告や啓発」、言い換えれば「ケアとPR」というテーマの難しさを痛感していた。多くの方に届けたいと思えば、表現はどうしても先鋭的になる。そして、先鋭的な表現は時に暴力性を帯び、たくさんの人を傷つける。だからといって、誰も傷つけないようにと無難な表現にとどめれば、結果的に誰にも届かないモノになるだけだ。

 この「ケアとPRのジレンマ」は、考えるほどに難しい。炎上ポスターのときだって、PRの専門家が入っていたにも関わらず、あのような結果を招いたのだ。だから、僕らのような素人が手を出すところじゃないんじゃないかな~なんて考えていた。僕らは医療の専門家、広告のことは広告の専門家に任せればいいと。

 そんな折、インターネットである文章が目についた。そこには、
「PRっていうのは思想なんだ。PRって誰にでも備えているべきものだし、これからの時代、一番大切な考えになる」
 と書かれていた。

 まじか。
 PRは「誰でも備えているべきもの」だって?

 いやでも、「ケアとPR」って本当に難しいと思うんですよ・・・。
 実質、ムリだと思うんですよ・・・。

 なんて、その記事を読んでいても半信半疑でいた僕は、その記事の執筆者の情報を見る。するとそこには「SNS医療のカタチのPRに関わっている」ということが書いているではないか。
 僕は背筋にぞくぞくしたものを感じながら、その方の経歴と、そして記事の内容をもう一度読み直した。
「そうか、僕が半ば思考を止めようとしていた『ケアとPR』について、この方は真正面から取り組もうとしている人なのか・・・」

――会いに行くしかない。

 すぐに、SNS医療のカタチのボス、大塚先生に連絡をし、その執筆者――イイジマケンジ(飯嶋健司)さんを紹介して頂いた。

小雨フル原宿ニテ

 イイジマさんと待ち合わせをしたのは、原宿のカフェだった。
「いつも、そのあたりで仕事をしているので」
 と、彼はメールで伝えてくれた。
 原宿でいつも仕事・・・なんともオシャレで羨ましいではないか。
「そうですか。僕もいつも仕事をするときは横浜のベイエリアにいることが多いんですけどね」
 と返そうと思って止めた。そんなところで対抗しても仕方がないのだ。今日は僕が、PRの何たるかを教えていただく日なのだから。話もウソだし。

 約束の日、原宿は煮え切らない天気だった。
 ざあっと降るわけでもない、かといって傘がないと数分でしっとりとしてしまうような天気。実際、傘をささずに足早に歩きゆくひともいれば、ひとつ傘に身を寄せ合いながら佇む人もいる原宿だった。

 そんな小雨ふるカフェで、イイジマさんは僕よりも早く来て待っていた。
「初めまして。ぜひ西先生に一度お会いしたいと思っていたんです」
 と、イイジマさんは開口一番に告げた。SNS医療のカタチなどの活動を通じて、僕のことは以前から知っていたらしい。
「西先生のツイッターも、noteもいつも読んでいます」
 と、嬉しいことを言ってくれる。
 ただ、今日は僕もイイジマさんの書かれたnoteを全て読破してからこのインタビューに臨んでいる。そのnoteで、すでに目からウロコがいくつか落ちていたものの、「まだ足りない」というのが僕の感想だった。今日のインタビューで、そのことを聞き切らないとならない。

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PRとは、社会とのより良い関係づくり

「PRというのは、社会との間で望ましい関係を形成するコミュニケーションなんです」
 と、イイジマさんはまず述べた。

(以下、黒太字の部分は西のセリフ/図は西作成)

「PRって、いろんなイメージがついていると思うんです。例えば、『自己PR』って使い方とか、PRって広告と一緒の意味なんじゃない、とか。ツイッターとかでもハッシュタグ『PR』ってついて商品の宣伝活動とかをしているので、ああいうのが誤解を招いているのかなと思うんです。

 PRというのはもともと『パブリック・リレーションズ(Public Relations)』の頭文字なんですね。つまり社会とのより良い関係づくり、というのがPRの定義づけなんです。なので、みなさんがイメージしているような、商品や企業を売り込んでいったりだとか、実際に商品を売るためのPRというのは、社会とのより良い関係づくり、という大きな枠から言えば一部の要素に過ぎないんですね。

 PRの中でも重要なことは、江戸時代から商人の間で大切にされてきた『三方よし』なんです。売り手良し、買い手良し、世間良し、というどなたにとってもWIN-WIN-WINになる関係性ですね。そういう関係性を作っていかないと、長期的な視点で、自分たちの利益は生まれない。つまり、売れればいい、注目されればいい、というような考え方ではないよっていうのは、日本のビジネスの考え方の根本にそもそもあるものなんです」

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 社会とのコミュニケーションがPRであるという考えがそもそも無かったです。売れればいい、という前提なのかと・・・。

「そうですよね。そして、ここでいう『世間』というのは誰なのか、ということも考える必要があります。ここも誤解されがちですが、PRってお客さんや消費者、医療で言えば患者さんだけを考えればいいかというとそうではない。そこに『世間』っていうのが入ってくるのだけど、その中身を細かく因数分解して考えていく必要があるんです」

 医療といっても幅広いですからね。医師会とか、他の職種の方々とか、患者団体とか、政府とか?そういうところがどう反応して、どのようなコミュニケーションを取っていくとよい関係性が作れるかというところでしょうか。
 PRが社会とのコミュニケーション、ということはわかりましたが、具体的にどのようなことを考えていくのがPRにつながるのでしょうか。

「PRは『発想』と『手法』に分けて考えるとわかりやすいかなと思います。

 発想というのは、発信をしたりとか、アクションをすることによって世の中がどのように反応するか。例えるなら『この一石を投じたときに、どのように波紋が広がっていくか』を考えて、予想するということ。

 それに対して手法というのは、その発想で考えたところの予測やアイディアというのを実際にアクションしていくという方法論。それがイベントだったり、本を出したり、といったところにつながる」

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「PR発想というのをもう少し詳しく見ていきます。

 PRって、適切な関係性を作れるように、より多くの人に情報を届けないといけない。そのためにどうするかとなると、まず自分が届けたい情報とターゲットの関心ごと、そして社会の関心ごとの共通点を見つけないとならない。それをPRの核となるテーマとして、着眼していく必要があります」

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「そのうえで、発見・発明というのに取り組んでいく必要があって、それによって社会の反応・反響を作り出していくということなんです。

 発見というのは例えば『新たな問いを立てる力』と言いますけど、これまで常識だと思われていたこととかに『いや、本当にそうかな』っていう問いかけをしたり、また『いまの日本に実はこういう問題が存在している』というのを見つけ出すということ。

 もうひとつの発明というのは、その発見した問いについて、これまでの常識にとらわれないような形で象徴的なアクションをするということ。例えば、コトバをつくるというのもそのひとつですね。今はもうジェンダーの問題で使えませんけど、昔なら『○○女子』みたいなのが流行ったじゃないですか。そういう、人の心にひっかかるようなキーワードを発明していくというのがひとつですね。

 PR発想のもうひとつの要素としては、想像・予想というのがあります。つまり世間の反応・反響を予測する力ですね。PRのアクションをする上で、どのような反応が返ってくるのかということをなるべく解像度高く予測する。
 医療で言えば、一般の方々、というだけでなく、患者さん、医療機関、その他などそれぞれがどんな思いになるかということを考えたデザインなのか、ということですね。その予測される反響から逆算して、自分たちがどのように思われたいのか、ということを考えていく必要があります。
 そこまでしないと、特に医療分野などセンシティブなテーマでは、誤った解釈で広まっていく可能性が高いため注意が必要になります」

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(2/5につづく)

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