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身勝手な妻に女々しい夫が腹立たしい「道に迷う」(2013)

ベトナム便り(5)で紹介した「母のたましい」と同じ女性監督のファム・ニュエ・ザンの作品。

田舎から出てきてハノイで働く若夫婦。夫は建設現場で働き、妻は屑を集めて生計をたてている。ある日、妻は芸術家風の男に呼び止められ、自宅のゴミをとりにきてほしいと頼まれる。妻はその男の家に通ううち、いつしか彼を愛するようになり、夫を捨てて、彼の家に住みはじめる。しかし男はある資産家の女性のヒモでしかない。それを知った夫は妻に告げようと妻と男が暮らす家を訪ねるが‥。

チェーホフの「かもめ」だ、と思った。だがこの映画のベトナムのコスチャはニーナを愛するあまり、他の男を愛するようになったニーナの影をおいかけはじめるのだ。

あの身勝手な妻を、他の男にはしった妻を愛するがゆえに追い続ける夫はなんとも不甲斐なく、女々しく、とてもではないが感情移入できない人物である。昔の歌の歌詞ではないが、まさに「わたし、待つわ、いつまでも待〜つわ」なのだ。純愛とはしかしこのようなものであるのかもとまた思うのである。

本作は約10年前に作家グエン・クアン・ラップの書いた脚本「エヴァはいない」を元につくられている。この脚本は当局の検閲で、「芸術的な価値は高いものの、内容が消極的に過ぎる」との理由で映画制作が許可されなかったものだ。

本作は2013年度のゴールデンカイト銀賞を受賞した。まだ一般公開されていないうちの受賞とあって、こちらも物議を醸した。

日本ベトナム友好協会東京都連ニュース 2017年10月号掲載


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