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ベトナム国歌「進軍歌」は誰のもの?

昨年12月6日、アセアン・サッカー連盟(AFF)カップでベトナムとラオスの対戦がYouTubeで放映された時のことだ。試合開始前、両国選手が整列し、ベトナムの国歌が流れるはずのところで、突然音声が途切れ、次のようなテロップが流れた。「音楽著作権のため、国旗掲揚式中の音声を切ります。国旗掲揚式後、音声信号は通常に戻ります。皆様ご容赦くださいませ」と。

これにはサッカーファンならずとも驚いた。ベトナム国歌には著作権があり、ネット上で自由に放送ができないのか?国歌は国に著作権があるのではと話題になった。

ベトナムの国歌「Tiến Quân Ca(進軍歌)」は1944年、作曲家のヴァン・カオが創作し、1946年ベトナム民主共和国の国歌となり、1976年南北の統一と同時に現体制の国歌として定まった。2016年にはヴァン・カオの遺族が著作権を国に寄贈し、以後作曲家ヴァン・カオの作品「進軍歌」はベトナムが国として所有している。

となればネット上であってもベトナム国歌の著作権は国が所有するものなら、ベトナム国民は自由に国家を歌い、放送しても構わないのでは?

実は2021年11月、ベトナム通信会社のFPT社がベトナム・サウジアラビア戦のサッカーの試合を同社のYouTubeチャンネルで放映した。そこでベトナム国歌を流したところ、米国マルコポーロ・レコード社から著作権料の請求を受ける事件があった。ベトナム国歌であっても第三者が製作した「録音」については著作隣接権、録音権が発生するため、放送にあたってはその著作権者に事前に許可を得、定められた録音権料を支払わなければ放送できなかったのだ。

AFFカップの放送を行なうメディア会社は供給を受けたベトナム国歌の録音権が確認できなかったために放送を控えたのだった。

ベトナムで著作隣接権、録音権という権利のあることを多くの人に知らしめる出来事ではあった。

日本ベトナム友好協会機関紙「日本とベトナム」2022年4月号掲載

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