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 先だって30年ぶりぐらいに再会した旧友がいる。あいだがだいぶ空いたが、再会後は連絡を取り合って旧交を温めている。
 僕と彼(以後O君と記す)は、同じ高校の吹奏楽部仲間。僕が部長でトランペット、O君は副部長でトロンボーンだった。高校の部活動は実に濃密なものであったし、その活動を3年間、しかも責任学年には部長・副部長として共に過ごした仲間。30年ぐらい間が空いてもこんなに違和感なく話せるのは何故だろうと不思議に思う一方で、同じ時代に同じ学校で同じ趣味を持っていた、一緒にいろんな事を楽しみ、そして乗り切った、だから当たり前だな、とも思う。

ヘルベルト・ブロムシュテット

 昨夜はO君を誘ってブロムシュテット指揮NHK交響楽団(以下N響)を聴いた。一緒にコンサートを聴くのもいつ以来だろう!それこそ30年以上経つだろうし、場所は多分、僕たちの高校があった地方都市の、音響も悪い「文化センター」であったろう。
 ブロムシュテット指揮N響というのは、我々80年代初頭に音楽活動を活発にしていた世代からすると、とても懐かしい組み合わせだ。ブラウン管のテレビで、現在のように横長ではなくほぼ真四角に近い画面で音も良くはない環境で「N響アワー」を貪るように観ていた。その頃ブロムシュテットはN響に頻繁に客演しており、よく見る指揮者の一人だった。当時既に50代後半だったと思われるブロムシュテット、今は92歳、あの組み合わせが今また観られるとは僥倖だ…。

 そのブロムシュテット、実は僕は2月にアメリカ・サンフランシスコで、サンフランシスコ交響楽団を彼が振ったコンサートを聴いている。プログラムはベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。相変わらず端正な音楽作りだったが、心に残る感じはあまりなく、サラッと爽やかに通り過ぎていってしまった感じの物足りなさを感じてしまったのだった。曲も曲だったせいもあるし、席がちょっと遠めだったこともあるかな…。デイヴィーズ・シンフォニーホールの音響も遠めの席だとあまりしっかり聞こえてこないのかもしれないな。
 と言うことでその時の印象から僕は一抹の不安を抱えつつ今回のN響へ…。そう、結果からいえばそんな杞憂は吹き飛んだ今回のブロムシュテット/N響へ!

友と聴いたブロムシュテット指揮N響

 昨夜の演目はモーツァルトの交響曲第36番ハ長調「リンツ」K.425、ミサ曲 ハ短調 K.427。どちらも1783年、モーツァルト27歳時の作品で揃え、ハ長調とハ短調。ブロムシュテットらしい、全体構成を考えたプログラミング。

 一聴、プログラム巻頭「今月のマエストロ」で宮下博氏が書いている通り「編成を刈り込んで対向配置とし、弦楽器のヴィブラートを排したストレートな演奏」が新鮮に響く。なるほど当時のオーケストラはこのぐらいの規模であったろうなと思う、非常に削ぎ落とされた編成。更にところによっては1st Vn/2nd Vnそれぞれ3プルトずつだけでアンサンブルを聴かせたりなどもしていて弦楽四重奏の延長としての弦楽合奏を思わせる。合唱もソプラノ16、アルト16、テノール14、バス14とスッキリした人数。
 対向配置も徹底している。単に下手から1st Vn, Vc, Va, 2nd Vnと並べた、というだけではない。トロンボーン2本は舞台上手、2nd VnやVaの後ろ。バストロンボーンは舞台下手、チェロ・コントラバスの後ろ。同じトロンボーンではあるのだが、右と左に完全に分かれて吹いていた。しかし実際に聴いてみると確かにバストロンボーンだけがチェロやコントラバスと同じ結構な速い動きを吹いているところなど有って合理的と感じた。
 独唱者4人も下手からソプラノIIのアンナ・ルチア・リヒター、ソプラノIのクリスティーナ・ランツハマー、テノールのティルマン・リヒディ、バリトンの甲斐栄次郎の並び。名前からすれば「ソプラノI→ソプラノII」としそうなところを逆にしているのもブロムシュテットの何かしらの拘りだろうと思う。
 また、アンサンブル重視の指向から、Ob1とFl、Fg1が木管三重奏的に聴かせる箇所では、Ob2とFlが席を入れ替わって三重奏の三人を並べるなどしている。実に細やかに拘っていて、それが効果的だったとも思う。

 更にこのミサ曲は、混声四部合唱だったものが、ソプラノを2パートに分けて五部合唱になったり、いわゆる二重合唱(混声四部合唱を2グループ作り、8声で歌う)もあったりする曲だが、合唱団の配置も都度変えさせてから次の曲に入る。恐れ入った。ブロムシュテットのこだわり、スゴいわ…。テレビ放送時にブロムシュテットから色々と説明があるだろうと思われるので刮目して待ちたい。

 独唱者ではソプラノIIのリヒターが歌った「われら主をほめ Laudamus te」が低音から高音まで遷移する高度な技能が要求される曲で印象に残った。リヒターは少しの乱れはあったが声質がただのソプラノらしからぬ温かさを持っていて低音も聴きやすく適役であったと思う。

古い友のお店で乾杯

 いやあ、ミサ曲素晴らしかったねえ、とO君と二人で語らいながら渋谷にあるワインバーへ移動。おいしいお酒と料理を楽しんだ。
 このお店は夫婦お二人でやってらっしゃる隠れ家的な素敵なお店で大好き。遠方住まいのためなかなか行けないが、折に触れて寄らせて頂いている。今回もO君との大事な宴なのでこのお店に、と。

 そして実は、ソムリエの旦那様と一緒にお店をやっている、料理担当の奥様(Aさんとしよう)は、僕とO君の二つ下に当たる仲間なのであった。しかもこのAさんが吹いていたのはトロンボーン。O君と同じパート。料理の合間にはAさんにもカウンター越しにお喋りに加わって頂き、楽しすぎる時間を過ごさせて頂いた。

 僕とO君には再会までの間に約30年の間があったので、その間に何をしていたかなど間を埋めるような会話も勿論少しはあったが、殆どの時間は音楽や美術や生き方や、様々なものごとについて実に楽しく言葉を交わしたのだった。冒頭にも書いたとおり「同じ時代に同じ学校で同じ趣味を持っていた、一緒にいろんな事を楽しみ、そして乗り切った」同窓の仲間、というものの有り難さを感じた晩。
 O君は翌日の予定があったため「まあほどほどに」との事で飲み始めたのだが、あまりに楽しすぎて殆ど終電に。すまなかったなぁ、O君。でも本当に楽しかった。旧交は温めるだけではなく、更に新たに積み上げていけるものと思う。これからもまた逢おう。そして音楽や美術、文学、生き方、色々な話をしよう。友と逢い、よい酒と料理でお喋りを楽しむ。セラヴィ!それが人生だ。

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