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ケイコさんよりも。

日曜日の夜は雨が多い。
今夜も雨の中、先生(ここでの呼び名。仕事、研究大好きな上司。不倫相手)に会いに、車を走らせる。

先週は、どういうわけだか、様々な方向から、私の信頼する方々が心を傷つけられていることを知り、でもうまく自分がフォローできない現実を目の当たりにして、先生に会う気にすらならなかった。
様々な方向、それは具体的にいうと、仕事、子どもの習い事、そして、このnoteにおいて私に似た立場にある人々である。

その人たちが心傷つけられるくらいなら、私が代わって矢面に立ちたいと願うが、現実的にはそうはいかない。
そのことを含めてブワ〜っと、先生にぶちまけたあと、最後に
余命宣告された先生の友達のことを聞きました、
先生も健康にはご留意ください、入院されたら最後、奥さんの監視下に入っちゃうので、もう出会えません、
と告げた。

そうですよ、そんなことになったら、多方面に
「ごめんね、もう会いに行けないよ」
と、連絡とらないといけないです、
と、いつもながらの冗談なのか本気なのかわからないテンションで、ぼくはいろんなところに彼女がいます、という世界観を先生が語る。

だから、私も先生にはそこまで本気になれない。
いや、それは事実とは異なるが、妻帯者だとわかった時点で、いろいろなことを諦めている自分がいる。
その割に、こっちは夫と別居状態になっているし、全く迷惑かけられてばっかりですよ、と愚痴りたくもあるが、結果的に今の方が気楽に過ごせている。先生との出会いで急速に事態は動いたが、早かれ遅かれ、夫との仲だけに関しては、同じ結末になっていたように思う(あるいはストレスフルな生活を強いられていただろう)。

ただ、先生は見た目も中身もそこまで恋愛向きではないし、それは私もそうだ。ビジュアルなんて、本当にフツー、先生は自称男前、多少若くみられてはウキウキしているが、私なんて右頬にはシミ、左頬には年末に転倒した時の擦り傷がまだ居座っている。
不倫に向いているかどうか、あえて言えば、2人とも体格が小柄で、狭い車内でもコトが終えられる、ということくらいである。
それに真っ暗闇で出会うので、お互い何を着ているのかもわからない。下着の色すら見えない。この間なんて、
ちょっと待ってください、どんなパンツ履いてるか、触ってみてもいいですか、
と、服を着るのを待ってもらって、ようやく手触りだけで、ああ、こういうタイプね、と理解した。
この年齢になるといろいろ見られたくない場所も多く、好都合でもあるのだが、聴覚と触覚だけで相手を認識しているのかと思うと、出会ってる時間そのものに現実味がない。

しかし、一つだけ先生の発言の中で誠実さを感じることと言えば、
ぼくはちゃんと人間性を確かめてからじゃないと、好きになりません、ましてや、そういうコトは信頼のおける相手じゃなきゃできません、
という発言だ。
若い時に、研修旅行でアジアのとある国に行った時、同じ部屋になった同僚と出かけたマッサージ店で、
ココカラハ オクノヘヤヨ、
と、片言の日本語で連れていかれそうになって、逃げ帰ったら、ちゃんと待合室で同僚も同じようなタイミングで出てきてくれて助かった、というエピソードである。

そしてこの週末、ご近所さん(おそらく50代、独身の男性)がわざわざ私に話がある、とやってきた。
別居中の夫がらみか、と身構えていると、
ケイコさん、56歳、こんな人、〇〇さんの職場におられますか?
と、携帯電話の画像を見せられた。

その年代にしては若い感じの、ちゃんとキレイにされてる感じの自撮り画像だった。

いや、私の職場にはおられないですよ……
市内の他のとこかな??私は出会ったことないですね……
と言葉を濁していると、
ここにこんなことも書いてあるんです、
と、仕事がらみの言葉をいくつか例に挙げてきた。

そして最後には、
いや、この方とマッチングアプリでやり取りしてるんですけどね、卑猥な写真とかも送ってくるんですよ、
仕事も仕事なのに、こんな写真送ってくるなんて、けしからん!と怒ってやろうかと思いましてね……
と、話し出した。

夕飯前の忙しい時間帯、どうしてこんな話を聞かされなきゃいけないんだ、早く唐揚げを揚げなければ……と気が急いていた私は、
いやまあ、仕事と趣味は別物ですから、
こう見えて、私だって不倫中ですし、
と話したくなったが、さすがに2行目は言わなかった。

この話を先生にすると、
さすがの僕でも、アプリで出会ったことはないですね、リスクが高すぎます、
と返された。
でも、チラッと見えたケイコさんの胸は、かなり大きかったですよ、
と話すと、
胸が大きいとか、そういうのは関係ありません、
と言われた。
そこは、真実だろう。
なんなら、私の胸は無いに等しい。

リスクが高いのは、不倫なら五十歩百歩のような気もするが、同じくらいの社会的立場をもっている人間なら、大丈夫、ということか。

少なくとも、私はケイコさんよりは信頼のおける相手であるようだ。

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