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4年ぶりの秋祭り

私の家から徒歩1分、いや歩き方によっては数十秒で神社に着く。私の実家は、うちよりもさらに神社に近く、そのことが私の母にとって、移住先を決めるポイントとなった。
朝、起きると、窓の外に神社が見えるのよ。
とっても素敵じゃない?
というようなことを、かつての母が、自慢げに言っていた。
お宮参りなどの祝い事があれば、太鼓の音が聞こえてくる。毎朝、自分の家の周りを掃除するついでに、神社周辺の土地も掃き清める。神様が近くに感じられる日常に対して、幸せを感じているようだ。
その後、私は結婚し、子どもができたことをきっかけに両親の移住先から数十メートルの場所に土地を購入し、家を建てた。

この神社で4年ぶりに秋祭りが行われた。今回は次男が子ども代表として榊を受け取り、奉納する役をいただいたこともあり、私と三兄弟が参加した。
悪天候が予想されたため、子ども神輿や獅子頭の巡行は中止となったので、今の時間、境内にはごく限られた人たちだけが集った。

氏子の村々の代表、女性代表、子ども代表、そしてお宮参りをした赤ちゃんとその親子が、改めてこの秋祭りに招かれる。
今年はこの赤ちゃんの参加がやけに多いと思っていたら、どうもこの4年の間にお宮参りをした赤ちゃん全員を招いたようである。
小さい子どもがこの地区にいる、と思うだけで、なんだか嬉しくなるのだが、その人数についてはぬか喜びだった。

神輿巡行は中止だったのだが、餅まきは開催された。祝詞奉納には参加者がまばらだった境内も、餅まきの時間になると賑やかになった。
集う人々の中に、数年前から年に一度、二度、イベントがあるときにお米を購入するようになった農家さんがいた。
先月、その農家さんが我が家に来られて、
「玄米30kgを8袋、今年ならご用意できますが、購入されませんか?」
と、申し出があった。
お米の購入をお願いしている実家に相談してみると、どうもその玄米の値段は、近所のお米屋さんで買っている価格の6割くらいらしい。精米の手間はかかるが、さすが米どころ、あちこちにセルフの精米コーナーがある。その8袋は農家さんの倉庫に保管してもらえるので、30kgがなくなれば連絡すればいい。
これから三兄弟がどんどん成長し、米はハイスピードで消えていくだろうし、すぐ購入をお願いした。

その農家さんもいつもは作業着だが、今日は式服だ。宮総代の中でも、さらに氏子となる8つの地区の代表としてマイクを持って餅まき参加者に挨拶や諸注意をされていた。
さらに向こうの方には、今年の青年部の取りまとめをしてもらっている男性も見えた。彼のご自宅に電話したのは今からひと月ほど前、この祭りについてである。

お盆の頃、郵便受けに青年部の名簿や活動計画が入っていた。青年部、と言っても20代から50代までの男性陣のことなのだが、我が家で青年部に該当するのは、別居中の夫である。

夫は、神輿巡行に白装束で連れ添う役にあたっていた。
その役を夫がすることは難しいので、他をあたってほしい、
もしどうしても、という場合は中学生の長男が代わりにします、
と取りまとめの男性宅に電話した。

その件なら、旦那さんから、もうお断りの連絡来てますよ。
お母さんの介護が大変になったんだそうですね。

ああ、なるほど。
表向きはそういうことにしてあるのか。
しかし、だ。
義母の住む街、さらに言えば夫の勤務先であるその街は、今の我が家から高速道路を使うと40分くらいである。相手を納得させるだけの理由になるのだろうか。
そして、私からのこの電話。この電話をかけてしまったことこそが、夫婦の連携が取れていないことを示してしまったな、と複雑な思いで電話を切った。

お隣さんも、私に訊ねてきたことがある。
旦那さん、家を出られてるんですか?
ここ数ヶ月、我が家の駐車場にずっと黒いミニバンを見かけないのである。お隣さんとしても、意を決しての質問だっただろう。
そうなんですよ、家にいないんです。
お隣さんの旦那さんからは、この電話のやり取りのあと、
お義母さん、大変なんですね、
と、青年部経由で得た情報に対して、僕も納得していますよ、と言わんばかりに、声をかけてくださった。気を遣わせてしまって、申し訳ない。

夫のこの理由付けは、どんな意図があるのか。
私たち、ここに残った家族に対する気遣いか。
それとも自分のプライドを守るためか。
私が真実を手短に伝えるならば、
私の不倫(あくまでその時点では疑惑だったのだが)がきっかけで、夫が出て行ってしまったんです。
この一文は、ちょっとおかしい。私の不倫がきっかけなら、私が出ていくのが筋だろう。私が不倫しているのに、子育てに専念するのも私で、家に残ったのも私。我が家の事実は、一般的な夫婦関係が壊れていく物語と、ちょっと違う。

三男が、自分たちも赤ちゃんの時に、この秋祭りに参加したのか、と訊ねてきたので、携帯電話に残された秋祭りの写真を見せた。データとしては不揃いだったが、長男や次男が小さい頃の写真には、夫の姿もあった。
夫は今、どこでどうしているのだろう。
未だに、夫の住む場所も、そしてこの先どうしたいのかも、まったくわからない。



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