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離婚のウワサ

明日は長男が部活動の大会、向こうで食べるものの準備のため、弟たちが入浴中に私と2人で買い物に出た。
ちょうど高校生が塾に向かう時間帯だったのか、田舎のスーパーマーケットのわりに、制服を着た男子学生の姿がちらほら見えた。
その中に長男が会釈する相手がいた。あとできくと、同級生のお兄さんだった。
彼らが小学生だった頃には何回か出会ったこともあったはずだが、この時期の成長によって、その頃の姿と今が結びつかない。

そういえば、Rちゃんとこ、離婚したみたいだよ、
と、帰りの車の中で、長男が先程話題になった同級生について話し出した。

Rちゃんは、小さい頃からスポーツクラブに所属し、走るのが速かったので、長男と市内の子ども駅伝大会に参加してくれるメンバーの1人だった。
さっき店の中で出会ったお兄ちゃんも含めて、3人のきょうだいに付き添うのは、いつもお母さんだった。
しかし、お父さんの存在がなかったわけではない。むしろ彼の方が、我々大人からすると、有名な存在だった。市内の、つまり片田舎の飲食店を2つも経営していて、1つは、私の職場の送別会でよく利用させてもらっているお店である。

仕事で多忙な夫と、おそらくほぼワンオペで子育てする若い妻(旦那さん、あるいは私に比べて)、特に離婚しそうであったわけではないが、その可能性がない2人、というわけでもない。ただ、あまり身近にそういう例を聞かないので、おおっ、と驚いた、というわけだ。

ぼくが知ったのは最近だけど、もう去年の間に離婚してたらしくって、お兄ちゃんはもう苗字が変わってるんだって。Rちゃんも中学卒業のときには変わるらしいよ、
と、長男はひとしきり語った後、
ぼくは、〇〇〇〇のままがいいけどね、
と、自分の名前をつぶやいた。

変えない、変えない、私も今の苗字の方が便利だもの、
と私も返答する。
我々親子の共通認識として、もうすぐ我が家は離婚するが、子どもたちの生活は極力そのままにすることが、大前提だ。それでも、身近な友達の苗字が変わることを聞くと、やはりそれが離婚の必須条件なのではないかと、長男は心配しているのだろう。

私たち家族が使っている苗字は、思い込みだけかもしれないが、ちょっと便利な苗字である。画数の少ない漢字で、形がシンプルなので、カッコよく書きやすい。
一方、私の旧姓はそこまででもないが、画数が多く、私の父でさえ、簡単なサインならカタカナで書いていたくらいだ。
五十音順でいくと、旧姓は真ん中くらいだが、今の苗字は端っこになることが多い(田舎だから、ある特定の苗字が多く、元々の人数や苗字の種類が少ないことも理由だが)。偶然ではあるが、うちの三兄弟の親友たちは、全員一つ違いで、何かと出席番号で並ぶ学校生活においては、いいことばかりなのである。

だから、変わってほしくないのだ。
3人の子どもたちは、転居しない、転校しない、そして苗字も変えない、という前提のもと、今の別居生活にも、そして私が推奨している、将来的な離婚にも、ある程度の理解を示しているのである。

それでも変わってしまうこともある。

子どものPTAで集まって立ち話に参加していると、
ケーキ屋さんされてたAさん、最近なんだか雰囲気が変わったみたいで、
そうそう、ちょっと話しかけづらくなった感じ……、
離婚されてからよね、多分……
みたいな話が聞こえてくる。

私はAさんを直接存じ上げないが、うちの両親が大好きなケーキ屋さんで、お子さんが2人いらっしゃる。Aさんが作る、全体的に「やわらかい」誕生日ケーキは、実家で行われる誕生日会に必ず出てくる。

その常連客である両親からは、Aさんの雰囲気が悪くなった、みたいなことは、聞いたことがない。
というより、そもそも離婚のことも知らないだろうし、雰囲気基準にしてケーキを買いに行ってるわけではないのだから、気づきもしないのだろう。

私の地区には日本版ハロウィンのような行事があり、地区にすむ小学生が、すべての家々を訪問するのだが、毎年何軒かはスキップする。
その家の一つは、
ここは離婚されて、旦那さんが出てらっしゃるし、奥さんは村の付き合いされてないから、隣に住む、旦那さんのご実家にだけ訪問する、
ということが、フワッとした噂で伝わっている。
実際出会ったことがないし、お子さんたちも成人されてるので、本当に関わりがないので、どこまでが真実なのかもわからない。

うちも、そうなるんだろうなぁ、
と、諦めではないが、ふと考えることがある。
3組に1組は離婚する、と言われても、居住している地域では、そこまで身近に感じられない。
上に書いた、離婚の噂話だって、単に日々の生活に追われているから、周りに愛想を振りまくだけの余裕がないのかもしれないし、他のコミュニティでは全然印象が違うかもしれない。

周りから見れば、別居、そして離婚を公表すれば、離婚した途端、変わったよね……
あるいは、
離婚したのに、元気だよね……
と言われてしまうのだろう。

そういえば、先日急ぎの決裁文書を回す時、印鑑を捺すのにアタフタしていたら、
僕のを捺しておきましょうか?
と、冗談を言ってきた先生(下の方の上司、現在の不倫相手)のことを思い出した。
じゃあ、お願いします、
と、一度冗談で返しつつ、程よい同僚としての会話を続けた。
その気もないのに、暢気なものだね、と思う。

最近思い出したのだが、我々親子は転居していない上、夫はこの家の鍵を持ったまま、別居している。
ふと、いつも開いたままにしているはずのオモチャ部屋の、今は閉まっている扉の向こうに、夫がひそんでいたら……と考えることがある。

なかなかの被害妄想であるが、これは、夫に対する罪の意識からくるのか、はたまた偏見か。
悩ましい日々は、まだまだ続きそうだ。

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