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過去のレコ評(2018-4)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「H.O.T」Nulbarich
JVC ケンウッド・ビクターエンタテインメント
VICL-64955

「NEW ERA」のMVでセンスの良さに気付き、アルバムで音の良さに驚き、ジャミロクワイの前座でライブの確かさに触れた。そんな幸せな出会い方をした分、セカンドアルバムに不安が無いわけではなかった。音楽性や演奏には不安はない。怖いのは「複雑な音楽への誘惑」だ。簡単に言うと、才能に溺れ、リスナーが求めることから乖離すること。ブルーノマーズとエドシーランが受賞したグラミー賞の結果を見ても明らかな通り、今の世の中は「表面的には単純なもの」への要求が高い。しかしそれは飽くまで表面的なもの。メロディやコード進行の構造は単純ながら、音の組み合わせのダイナミズムやミックスの緻密さは多分に複雑だ。では今作はどうか?3曲目の循環コード、4曲目のさりげないサイドチェインコンプ、5曲目のリバーブ処理がその答えだ。楽しめるアルバムがまた1枚増えて非常に嬉しい。

「In Colors」ART-SCHOOL
Warszawa-Label
WARS-0005

前のめりなボーカルと俯きがちなギター。3曲目で見せる感傷と、4曲目に漂う優しい内向性。それをロックバンドに落とし込むという技術(=アート)。それが彼らの魅力だ。だが敢えてここではロック色の少なめな7曲目「Shining
夕暮れ」を取り上げてみたい。夕刻の診療室、ラクには生きられない彼と彼女。レイモンドカーヴァーのミニマルな小説のような世界。カートコバーンの発明を血肉にしたような循環コード。循環の最後でスケールアウトすることが、心の捻れとリンクする。そう、彼らが表現したいのは、ストーリーでありエピソード。だから、余計なことは一切しないことで内面を曝け出す三好敏彦のミックスに頷いてしまう。コーラスで参加しているUCARYの声も彼らの歌詞世界と相性が良い。

「情景泥棒」The Back Horn
SPEEDSTAR RECORDS
VICL-64966

1曲目、派手なアンセム的盛り上がりの後、突然のシンセリフ。プリンスのバットダンスを思わせるような妖しさ。これまで様々なタイアップ曲を作り続けてきた彼ら故のフットワークの軽さ。単なるロックバンドでは収まらない器だ。とはいえ、今作では4人での生演奏を意識した楽曲が多いように感じる。タイアップ、動画サイトのMV、ラジオなどプロモーションの場は多々あるけれども、やはりライブを意識しているのだろう。ライブこそ、ファンにとっては何より得難い体験であるし、さらなるファン獲得の有効なツールであるのだから。そしてハイ上がりなギターとハイハットは、バンド形態ではない音楽との横並びに耐える強固さがある。ベースの岡峰の作った7曲目、90’s的で興味深い。

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