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【第三回】いよいよ独創性が慎重に評価される時代へ

さて、前回の記事で申請書に記載する「これからの研究」において意識したほうがいいと思うこと三点、

1. 学術・産業界に寄与する研究内容であること
2. 研究費(国税)を投じるに値する(必要性がある)研究内容であること
3. 申請者本人のアイディアによる独創的なものであること

言い換えると…

1. 成就すればN姉妹誌くらいに掲載できそうな研究テーマであり、
2. 研究にお金が必要だと審査員が強く思える研究テーマで、
3. 指導教員の研究課題と被っていない申請者本人が考え出した研究テーマであること。

を紹介しました。今回は上記3つ目、
3. 指導教員の研究課題と被っていない申請者本人が考え出した研究テーマであること。
についてお話していきたいと思います。

個人的に、この記事だけは関連する人は必読だと思っております。
では、どのような人が関連するのか。それは、意識すべきポイント3つ目に書いてあるとおり、「これからの研究」が指導教員の研究課題と被っている方です。

どこまでを被っていると表現するかについては自己のご判断にお任せします。
でも被っていると審査員の方々に判断された場合、本当にこれは致命傷になります。

今回も結論から申し上げますと、
審査員の先生方は結構ググってます。具体的には、
【1】申請者の名前
【2】指導教員の名前(研究室)
【3】これからの研究のキーワード
この三点は調べられると思って申請書を書いた方がいいです。

これは、実体験なのですが、私の大好きな関西の友人Y氏の学振審査についてです。
我々は研究室に所属する身ですから、指導教員の持つ研究課題に取り組むことはごく自然なことです。それこそRAなどで雇用されていれば尚のことだと思います。ここで、Y氏も指導教員の持つ大きなグラントのいち研究課題に取り組む学生でした。私は申請書の提出締め切り後にY氏から送られてきた彼の申請書を読ませてもらったのですが、彼の申請書における「これからの研究」の研究テーマは、指導教員のそれと差異を見出すのが少し難しいものでした。さらに、申請書中の太文字で記してあるキーワードをGoogleの検索に入力すると彼の指導教員のwebページが一発で出てきました。KAKENも同様です。私は大いに不安になりました「これは、審査員の先生方がこれを調べたら評点の4や5はもらえないのでは無いか…」と。学振の審査は皆さんご存知と思いますのでここら辺は省略しますが、1人でも審査員が1とか2とかの評点をつけると採用は厳しくなります。

案の定、Y氏のスコアは研究計画が他に比べてビックリするくらい低かったです。それに影響されたかのように総合評価も低めでした。逆に研究者としての資質や研究実績については3点代後半でしたので、とても惜しいことをしたと思います。

あくまで私の経験に基づいた推察でしかありませんが、最近の学振はすごく、この申請者自身の独創性を意識しているように思います。この推察を支持するかのように今年度採用分から研究実績が研究遂行能力に変わりました(詳しくはこちら:【第二回なぜ、今(10月に)業績欄を書いてみるのかpart3】)。これは業績の多寡のみを持って判断するのではなく、業績をあげた過程やこれまでの研究への取り組みを評価します。というもので、この過程や取り組みとは、申請者自身がラボの手となり足となりと言った立場ではなく、主体性や独創性を生かした活動をしてきたかと言ったもので、それが重要な評価項目になったと私は認識しています。これは説得力のあるエビデンスとは言い難いかもしれませんが、現に、この業績で採用されるの?!と思うような、論文が一本もなく学会発表も2件(ポスター)程度だったりで採用された人を今年度審査分でたくさん見ました…逆に、筆頭著者論文2本あるのに不採用になった学生も知っています。

これが【第四回】の記事の最後でも紹介した、ビッグラボの方が今後不利になる可能性すらある、という私の考えの根拠です。指導教員が予算のつくような研究課題に取り組んでいる場合、所属する研究室の研究課題の中においてどのような申請者自身の主体的な取り組みの末に申請書に記載するような「これからの研究」の研究テーマが生み出されたのか。研究テーマの帰属する先、オリジナリティは申請者本人なのか。この問いに十分に答えられる申請書でなければなりません。

この記事を年末か年始までに上げていれば、私はすごい人になれたのにな、と年末の怠惰を悔やんでおります。突然何を言い出すのかと思ったかもしれませんが、この推察を支持するかのように(本日二度目)、学振の申請書は20年度審査分(21年度採用分)から「研究の特色・独創的な点」に関する記述欄が倍くらいの大きさになりました。これは学振サイドの新しい審査方針に関する啓示であると私は思っております。そして、これは申請者サイドにとっても非常に有効な変化であると思っています。どっちが先なのかはわかりませんが、申請者が自身が特別研究員にふさわしいことを示そうとした時に注力して書いてきた部分について、審査員がより詳しく書いて欲しいと思ってくれている、という相思相愛な関係?状態?なのでは無いかなと思います。

これまでビッグラボの傘の下、大きなグラントをバンバンとってこれる指導教員の面白いテーマをそのまま自身の独創性も乏しく申請していた人、論文が自身の努力なく勝手に出来上がっていくような環境で研究してきてしまった人、などは明確な理由を持って低い点がつけられるようになりました。(以前から、ここまであからさまに主体性がないような人は不採用になっていた気もしますが。。。)
故に、ビッグラボであればあるほど書き方に注意をしないと、前述のような主体性と独創性のない申請者と勘違いされてしまうかもしれません。せっかく自分なりの考えや経験に基づいて「これからの研究」を生み出しても、それが独創性がないと判断されてしまっては水の泡です。

ここからは、私が個人的に考える対策ですが、大きく分けて、
(すみません。私は指導教員とは全く違う方向の研究を申請したので、自身の経験に基づいたアドバイスは下記1しかありません。)
1. 指導教員とは別の方向で研究テーマを考える。
2. 素直に研究の始まりは指導教員の研究課題であると認めてしまう。

の2つだと思います。

1. は単純明快です。研究テーマに関するキーワードを検索しても指導教員の名前が出てこないような(もちろん他のグループのいかなる先行研究も出てきてはいけません)を考える。私の場合は超高速分光というジャンルでは同じであるが、採用する測定手法、測定対象は指導教員が未だに取り組んだことが無いものを選びました(選んだというより、純粋に自然にやってみたいことがそれだった、という幸運な環境だったのだと思います)。さらに言えば、その測定対象が自身の経歴に深く関わっているものであり、この測定対象と測定手法をコラボレーションさせようと思った動機にも主体性と独創性、特異性?などと言うんでしょうか、を織り混ぜています。(結果的にそうなってました。書いていた当初はあんまりそんなこと意識していませんでしたが…)

2. 素直に認めてしまうのもいいと思います。本研究の始まりは指導教員の***という研究課題にある。と明記してくれた方が審査員の先生方も調べる必要もなくなりますし。ただ、その上で、これまでの研究でどんなオリジナリティを見出したのか、そこに言及しなければなりません。指導教員の研究課題に取り組む過程で、これをこうしたら面白いんじゃ無いかと思った、とか、実は自分のこんな発想でこんな面白いことを見出していて、もはや指導教員の手を離れ申請者自身の血の通った研究テーマなんです。と、わかるように説明することがいいと思います。

ずいぶんつらつらと書いてきたら、3000字になってしまいました…
2つに分けようかとも思いましたが、そんな気力も無いのでこのままにしようと思います。

1. のところでもカッコ書きで書いていますが、私自身は、私の申請書を書く際にこんな論理的なことは一切考えていませんでした。終わってみて、自分のを読んでみるとこんなロジックがあった、ぐらいのものです。では、当時はどのような心持ちで何をしていたかというと、
「これが自分の生み出した自分だけの研究テーマである。」
と強く考えて、それを審査員の人にわかってもらうためには、どのように伝えればいいだろうかと日夜考え続けておりました。
論理的に当てはめながら申請書を作ることももちろん大事ですが、機械的な文面よりも、まず皆さんが自身の研究テーマに抱く強い感情に素直に従って、それを最大限審査員の方々に伝えるためにはどうしたらいいか、それを考えるのが良いと思います。その努力ができないならば、きっと審査員の方々はその申請書に振り向いてくれません。締め切りまであと1ヶ月と少しかと思いますが、ぜひ頑張ってください。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今年の記事はこれにて終了です。次回は学振締め切り後の5月くらいから書いていこうかと計画しています。

編集後記:他の学振記事と差別化すべく短めの文章で具体例を交えた具体的な書き方について紹介していこうと当初は思っていたのですが、なかなかそうはいかないものですね。業績をどう利用するか、という題についてはだいぶ踏み込んだ具体例の紹介ができたように思いますが、そのほかについては実に抽象的な内容になってしまったこと、ここにお詫びいたします。如何せん申請書にはすごく多くの秘密が含まれているものですから公開はできないし、書き方によってはあらぬ批判を受けかねないのが昨今のSNS事情というものです。ご勘弁ください。
ただ、具体的な書き方について知る術として最も有効なのは採用された人の申請書を読むことだと思います。できれば採用者の説明付きで。学振の申請書は短いです。とても。なので、ほとんど一文一文に説明できるほどの存在理由があります。それを聞きながら読んでみるとすごく学びになると思います。それと、採用された人の申請書を見せてもらうときには、ぜひ初稿も見せてもらうと良いと思います。おそらく、採用された人は須く初稿から最終稿に至るまでに物凄い改善改良を施していることと思います。その過程を垣間見ることも貴重な学びになると思います。
自分も書くときにそう言った環境があればよかったな、と感じました。

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